こんばんわ、トーコです。
今日は、伊藤眞の『倒産法入門』です。
■あらすじ
突然ですが、そもそも倒産というのはどういう状況のことを言うでしょうか。
本書では、コロナ渦で倒産が増えている中で、事業再生に向かうための法的な仕組みを解説していきます。
■作品を読んで
著者は、1945年生まれの法学者の方です。専門は、民事訴訟法、民事執行法、倒産法、裁判法です。
ここで、伊藤真さんという伊藤塾という資格予備校のトップとは別な方です。同じ名前なのであれ、と思う方もいますが、別の方です。
この作品が生まれた理由は、はじめにで書かれています。
執筆を始めた令和2年5月と言えば、コロナで少しずつ企業経営に影響を及ぼすようになりつつある頃です。その意味ではある意味、コロナ本…。
この先、倒産についてかなり身近なものになる人が増える時に、立ち直りの一歩として、この本が各種制度を理解するのに役立てばという思いで執筆したのだとか。
それでは、本編に行きましょう。
まず、倒産の前に、売上不振を認識し、経営合理化を進めます。この段階はまだ自助努力の段階です。
次に私的整理に入ります。これは、合理化案の作成や検証、金融機関との交渉について債務者(経営者)以外の人が関与することです。
この次は裁判所がかかわってきます。破産、民事再生、会社更生、特別清算と呼ばれるやつです。というか、裁判所が最終的な手続遂行の責任を負います。
裁判所がかかわる場合というのは、①最初から裁判所の法的整理にしよう、②様々な利害関係との意見の相違から私的整理が無理だとあきらめた場合のようです。
私的整理と法的整理だけでなく、再生型と清算型、DIP型と管財人型についても解説されています。
破産はそもそも、明治期からあり、現代においても諸手続きの根底にあると言っても過言ではないです。
さらに、破産になった場合は、事業用資産や生活の基盤となっている財産を売却して債務の一部を支払い(配当)、残った債務については、法人の解散によって消滅するか、個人については、免責を与え、新得財産を基礎として生活の再建を図る機会を与えるという取扱いがなされます。
仮に、危機的な状況の前であれば、債務の負担さえ軽減できれば、資産や財産を維持しつつ、事業収入や個人の給与などによって返済が可能なこともあります。この要請に応えるのが、民事再生です。
というか、会社等に雇われている身分としては、会社はダメかもしれないけど給料はください、マジでという気分ですが。
ちなみに、民事再生は、債務者の属性については特段の限定はないようです。ということは、誰でも利用できます。
法律用語ってかなりとっつきにくいし、意味が分からないので、こうして嚙み砕いていっていただけるとなんともありがたいです。
だから、第3章のタイトルが「誰もが利用できる民事再生」なんですね。納得です。
再生型手続きのなかでも会社更生手続きは、最強のツールです。しかし、適用事案は減少し続けています。まあ、そもそも、利用者が株式会社に限定しているのも大きいかもしれません。
第4章では、会社更生手続きについて解説がされています。なかなか手続きは大変なようです。
これを利用して再建したのはJALです。JALの場合は、順調に再建が進んだため、開始申立てから1年経たずに終結手続きが取られ、無事に更生会社から脱却することができました。
大変な手続きを乗り越えて、手続き遂行主体や関係者の努力よって早期の再生が可能になる手続きでもあります。
第5章では、特別清算についてです。破産と似ていますが、適用対象は株式会社のみです。
破産も清算も、資産を換価(売却)して負債の弁済にあてます。これをしていただかなければ、借金はおろか、従業員の給料も払えません。
というか、この段階に突入してしまえば、従業員は給料はもちろん、退職金等もあきらめなければなりませんが…。破産した会社で無事に退職金をもらえた方いたら連絡ください。
第6章、第7章では、法的整理を開始すると、債務者(破産者、再生債務者、更生会社、清算株式会社)と相手方をの法律関係を見ていきます。
言われてみればそうですが、債務者も破綻する寸前まで普通に事業を行っています。ここでは、売買契約、賃貸借契約、請負契約、ファイナンスリースについてみていきます。
ちなみにですが、破産手続き開始前に債務者所有の不動産を買い受け、引渡しを受けていたが、移転登記はまだ済んでいない買主がいるとします。この場合は、破産手続き開始という出来事によって、買主は不動産の所有権を破産管財人に主張することができずに、破産管財人に返却しなければなりません。
へっとなるでしょう。気になる方は、ぜひ作品を読んでください。なかなか法律に照らし合わせた結果の、奥の深い主張があります。
また、請負契約についても不動産工事についても様々な法律関係が絡んできます。
トーコも、昔の会社で相手の会社が破産して請負金が回収できなかったという出来事がありました。あれはとんでもなかったですね…。
その流れで、破産手続き開始前に有効に行われた行為の効力を覆すことを認める否認権の発動について解説が進めれらます。
ここで、有効に行われた行為とは、破産者が行った売買や担保権設定です。否認の制度を持つのは、破産、民事再生、会社更生のみです。
一見するとかなり乱暴な行為にしか見えないのですが、なぜ認められているのかを解説していきます。これが第8章です。
第9章は、優先的地位についてです。というのも、担保権を有する債権者が優先的に弁済を受けられます。優先弁済を受けられる債権を被担保債権と呼びます。
さらに、民法典上優先弁済権を認められているのは、先取特権、質権、抵当権の3つです。この章は聞き慣れない法律用語がポンポン飛び交いますが、なるべくわかりやすい言葉で解説していきます。
最終章では、相殺について解説されています。これも1言でなかなか言えないものがあるので、詳しくは作品を読んでください。
破産は、ローマ時代からあるので、ざっと2000年の歴史があります。日本では、平成18年の倒産法で今の形に整理されてきました。終わりにでは、著者から見た課題が記載されています。
駆け足ですが、これが倒産法の中身です。まあ、ほんの一部なんでしょうが、初心者にはこれで十分な気がします。もし気になる部分があれば、判例や他の文献ページが記載されているので、参照してみるといいかと思います。
■最後に
法律を学んだことのない人向けの倒産法入門です。難解な法律用語も平易な表現を使いながら解説されています。
自分や事業を立ち直るためには必要な知識かもしれませんね。