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【江戸の推理小説】315.『鬼火の町』著:松本清張

投稿日:8月 15, 2021 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、松本清張の『鬼火の町』です。

鬼火の町新装版

 

■あらすじ

ある日川に無人の釣舟が浮かんでおり、そこから2人の男の死体が見つかった。岡っ引の藤兵衛は川底を捜索させたところ、豪華な煙管が見つかる。

しかし、突然藤兵衛は捜索の中止を命じられる…。

 

■作品を読んで

松本清張って時代もの書いてたんだ、と思い手に取りました。物珍しいな、と思ったのでしょうね。

著者は、『点と線』、『砂の器』、『黒革の手帖』など、数えればきりがないくらいのベストセラーを残しています。

さらに、映像化(忘れたころに何かしらの作品が映像化されている)も結構な数です。

トーコ一個人は、松本清張と言えば悪女とミステリーと思っているのですが、この作品は悪女は登場しません。

Wikipedia曰く、執筆量が激増した時にある女性と関係を持ったのですが、女性側が清張の妻になりたくて執拗に迫り大変な思いをしたとのこと。ここで、清張は学びます。悪女っているんだ、と。ここから、悪女が登場するようになったのだとか。

ちなみに瀬戸内寂聴がその元愛人的な人に取材に行ったところ、元愛人側が清張への馬事雑言がすごく、とてもじゃないが書く気を失せたらしいです。

清張さん、あなた運がいいですね。奥さんを大事にしたおかげで、女と別れることができて、さらに悪女に学んで小説活動をより充実させるのですから。

その一方で、相手の女は結婚してくれなかった清張に恨みを持ち、聞いてる側が嫌になるレベルの罵倒をするのだから、まあ運はないですね。

さて、話を戻しましょう。

この作品は、隅田川で舟釣りをしていた惣六という屋根師と船頭の男が死体となって発見されたところから物語は始まります。

何かきっとあるな、と勘繰ったこの界隈を管轄とする岡っ引の藤兵衛は、隅田川に潜り、手がかりとなる物証を探します。そこで贅を凝らした煙管を見つけます。

そこからは大変なことになります。普段は藤兵衛のことを利用していた同心の川島から、藤兵衛がこの件に首を突っ込むことを禁止します。

背後には幕府の時の権力者の威光がありました。それは同心ですら、手出しできない領域の案件になっていたのです。そのため、藤兵衛は手を引き、隣の地区を管轄する若い岡っ引に捜索と処理をさせます。

藤兵衛は、その様子を指を加えてみていたわけではありません。しかし、今まで協力してきた近所の子分たちや釜木という普請組の男からの説得もあり、藤兵衛は捜索を続行します。

しかし、その途中で同心の川島に捜索をしていたことがばれ、岡っ引の象徴である十手を取り上げられます。それくらいどこからか圧力のかかっている事件でもありました。

なんだか、現代社会によくある構造で。半沢直樹的要素のある作品というのは、いつの時代もあるものです。

 

この作品は江戸時代の岡っ引や同心、当時の社会状況など、さりげなく読者が読みやすいように読むのに必要な知識が挿入されています。

トーコもですが初めて知った話があります。例えば、岡っ引。

藤兵衛は岡っ引としての仕事をしていますが、正確には奉行所の小者です。小者は、奉行所に仕える役人でもなければ、雇人でもありません。単に、同心が便利な手先として使っているだけの存在です。

しかも、給与は雀の涙です。それで、今回のような事件が起こればあっという間に守りもせず、裏切られます。

現代の会社みたいで、若干怖くなりましたよ、ええ。江戸時代からちゃんとあったんですね、こういう話。

 

藤兵衛と仲間たちとの捜索の中で、ある人物がかかわっているのではないか、という推測が立ちました。

それは、煙管は大奥の女中への賄賂の品で、殺された惣六は屋根師として大奥に出入りしている中で、大奥女中と昵懇の仲となり、煙管が渡ったのではないかと。

惣六から賄賂に関する情報を恐れた誰かが惣六を始末したのではないか、と。

さらに言えば、惣六殺しの犯人は惣六と内縁の仲のお絹という女であると決めつけられ、お絹は無実のはずなのに牢屋に入れられていました。

この件の関連で、お春という女も殺されています。お春は娘義太夫で、どちらかというと惣六を追い回していたようです。

惣六という屋根師はいわゆる色男というやつで、なかなかにモテていたようです。だから、大奥女中と昵懇の仲になれるのでした。

結末を語ってしまうと、推理小説なので面白くなくなるかと思うので、ここまでにします。

この作品の最大の特徴は、最終章で突然時が移動することでしょうか。

最終章までは進行形で語られます。最終章の1ページ前で、惣六殺しの裏の事件の種明かしがされます。物語の核心に迫りますが、次の最終章で藤兵衛という名から竹亭の俳人になった70歳近い老人として登場し、ことの顛末を語らせます。

いきなり、回想させるというある意味では平和な終わり方をさせます。結構拍子抜けした人多数でしょう。トーコも見事に拍子抜けしました。

そして、最後にあとがきにも書かれていますが、この作品の見事な点は、「欲望」と「身分」を原点に事件をまとめ上げたことでしょうか。

惣六殺しと煙管、お春、あと1人お島という女性が出てきますが、この人たちは身分の高い人達の欲望に巻き込まれ、尊い命を亡くしています。

また、犯罪の指示をしているのは身分の高いものですが、実際の実行部隊は身分の低いものです。

さらに、藤兵衛も岡っ引と同心との間の上下関係にある葛藤に苦しみます。この葛藤と各自の欲望とからみ合って犯罪が発生していたのです。

この時代推理小説が松本清張作品の中でも読みやすい気がするのは、清張の「欲望」と「身分」を焦点にした事件がより鋭くない状態で登場するからなのかもしれません。

つまり、『黒革の手帖』なんて最たるものでしょう。「欲望」と「身分」を見事に切り取ったはらはらドキドキのサスペンスもの。

という気がします。(トーコは『黒革の手帖』を読んでいないので、浅い情報で作品を解釈しています。)

 

■最後に

そんなに数が多くないはずの、松本清張の時代推理小説です。のちの作品にもつながる要素が満載の作品です。

清張初心者でも手軽に読めそうな作品です。

 

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