こんばんわ、トーコです。
今日は、小野善康の『資本主義の方程式』です。
■あらすじ
順調に成長した昭和時代。しかし、平成になり成長が鈍化し、今に至っています。しかも、経済学では説明がつかない。
一体どうしたものか、そして解決策はあるのでしょうか。
■作品を読んで
この作品を読んで、なるほど、と感心しかないです。いろいろと腑に落ちました。
平成30年間の長期不況の理由は、これまでの経済学の理論を合わせても説明できないものなんだな、とトーコもうっすら思っていました。
というか、説明できていたら長期不況からとっとと抜けていたはずですからね。
それでは、中身を見ていきましょう。
まず、近年の状況を見ていきましょう。
アベノミクス以降、完全失業率はバブル期並みの低水準、株価は回復し、従来であれば経済回復のサインでもありました。
しかし、待てど暮らせど消費は低迷を続け、経済成長も低いままです。国内総生産(GDP)は1997年の534兆円に対し、2015年は531兆円と経済はまったく成長していません。
また、特に注目されている格差拡大についても、満足な説明がありません。従来の経済学では、個人の能力の違いや、長期的視野の有無で論じられてきました。
能力主義については、サンデル教授のこちらの作品もよかったらどうそ。322.『実力も運のうち 能力主義は正義か』
こちらは、正義論をベースに挑んでいますので、ちょっと視点がちがいますが。
さらに、新型コロナウイルス感染症対策で国民1人当たり10万円を配りました。しかし、消費が低迷している状況では、お金をばらまいても経済が活性化しません。需要がなぜ伸びないのかの原因を解明する必要があります。
ここで、資産選好という言葉が登場します。資産選好とは、人々の持つお金や資産そのものへの執着心です。
お金を持つこと自体に幸せを感じるのであれば、ある程度の消費欲求が満たされれば、モノやサービスの消費を増やそうとはしません。また、金利が低くても資産を持っていたいと思うことでしょう。
そもそも、日銀が行っている金融緩和とは、金利を低く抑えたら、金融資産の保有が不利になるので、人々の所得は貯蓄より消費に向かうだろうという目論見です。
というか、トーコはなんで金融緩和やってるんだという意味をこの作品を読んで初めて知りました。すごいですね、現実にそうなっていないのに何年も実施し続けるだなんて…。しかも、まだやるとか言ってますからね、2022年4月下旬現在。
格差についても同様の説明ができます。引用にします。
富める者は、貯蓄の目的が金融資産の蓄積そのものとなって、ますます富んでいくのに、物やサービスへの需要を増やそうとはしない。貧しい者は、経済全体の総需要不足で十分な雇用機会が得られず、所得が低迷して大半を必需品の消費に回さざるを得ないから、お金が貯まらない。こうして資産格差がどんどん拡大していく。
すごい話だなと思います。今って日本人はこの作品でいうところの貧しい人に該当しているのでは、と思っています。
しかも、2022年4月下旬現在物価がみんな上がっています。原油、お菓子、はてまた高級ブランドもの。上がらないものと言えばおそらくコメと野菜くらいでは…と思ってしまうくらいです。
野菜だって天候不順等があれば価格は変わりますけどね。これを言わないと農家さんに怒られる。
これが現在の成熟経済と言われている場合のメカニズムになります。総需要不足によって引き起こされていると言っても過言ではないです。
ここまでがまさかの「はじめに」の話です。結構重要ポイントが書かれています。なるほどと感心でしかないです(2回目のセリフ)。
経済学を学ばれた方は見たことがあると思いますが、本編に入ると基本方程式というものを使用して解説が始まります。
経済学なんて知りませんよ、という方でも大丈夫。ちゃんとわかりやすく意味を解説しているので。
読み進めていくと、
- そもそも今の経済状況が成長経済ではなく成熟経済であることを正しく認識しきれていないこと
- 成熟経済に合った経済対策がなされていないこと
がそもそもの原因なのでは、という結論に至ります。
生産能力がそれほど大きくない経済では、生産能力に対して総需要が不足していれば、物価が下がって実質金融資産が増大し、消費と投資が刺激されて生産能力に見合った総需要が生まれます。
いわゆる、需要と供給の関係ってやつです。この話は、ご存知の方も多いと思います。
しかし、現在の状況は違います。生産能力が十分に大きくなり、それに伴って消費もどんどん増えていくと、人々が持つ消費増大への欲望は徐々に減退していきます。一方で、金融資産は増えても資産蓄積への欲望はなかなか減りません。
モノは買わないけど、金融資産として貯めていくことは好きだという人が多くなっている傾向にあるのです。
つまり、成熟経済は生産能力が大きくなりすぎると、資産選好により消費が伸びず総需要不足が起こります。この場合の経済活動は、総需要が決めます。
認識を改める必要性が出てきました。需要が不足しているということは、供給が有り余っているので生産能力を落とさざるを得ません。
だからデフレになり(価格を下げることでの需要喚起)、リストラ(生産能力を落とすため)を行わざるを得なくなるのです。最悪所得も変わっていきます。総需要がないのですからね。
また、財政支出も金額的なものではなく、生活の質の向上に役立つ社会インフラや公共サービスを提供するという財政支出本来の目的とともに、民業を圧迫することなく、どれだけの規模の新規雇用や新規需要を創出したかということが重要になってきます。
とにかく、今までの政策のあり方から変わっていくのです。
また、これが結構重要なので、引用方式で示しますよ。
個々の人々は、自分が消費を控えるから経済全体で総需要が減り、それが経済活動を抑えて自分の所得を減らしている、とは思わない。実際、自分だけが消費を減らしても、経済全体の需要不足が目に見えて深刻化するはずがない。ところが、それと同じ行動をすべての人がすれば、経済全体で総需要が減って経済活動が停滞し、所得が減ってしまう。
つまり個人は、自分のカネを貯めたいという行動が自分の所得に影響を与えるとは思ってもいないが、皆が同じことをすれば、それが生産活動を抑え、個々の人々の所得を減らしてしまうのである。
カネを貯めるという行動について、ここ最近様々な形で聞かれるようになってきました。
日本の場合は、将来不安をかなりデータで示されているので、早期の資産形成も個人の努力で求められています。なので、ここ最近の風潮は消費より貯蓄、なんなら資産形成で株や投資信託という流れがかなり強いです。
それゆえの状況だということがよくわかってきました。
さらに、格差についてもこれで説明がつきます。
総需要不足によって、失業や非効率な雇用が生まれ、貧困層は負債と所得不足の両方に悩まされ、ますます貧困から抜け出せなくなります。
では一体どうすればいいのでしょうか。最終章で政策提言を行っています。
まずは、成熟経済に合わせた教育を行うこと。なんだか低速ながらも少しずつですが始まってはいます。
次に再分配です。消費に回されることなく積みあがったカネは、資産保有願望を満たすだけで、実際は何も役に立ってはいません。
数字の幸せが経済の停滞と不平等を生み出していることに、気づく必要があります。これは富裕層に限らず、皆ですが。
そのため、特に富裕層は創造的な消費を考え、社会インフラや公共サービス充実のためにカネを払うことを嫌がらないようにするのがいいのです。
格差は世代を超えます。受け継がれてしまいますからね。だから、「親ガチャ」という言葉がピックアップされてしまうのです。
「親ガチャ」という言葉が絶滅してほしいところですね。
■最後に
この作品を読めば、現在の経済状況を理解することができます。これまでの常識が全く通用していない理由もわかります。
現状を正しく認識し、正しく対策を行わない限りよくなることはないです。それからアクションすることが大事です。