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エッセイ

【本屋の運営】392.『本屋、はじめました』著:辻山良雄

投稿日:5月 26, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、辻山良雄の『本屋、はじめました』です。

 

■あらすじ

荻窪に「Title」という本屋さんがあるのをご存知でしょうか。

「Title」を経営している著者は、もともとリブロのマネージャーとして日本全国の店舗を回り、池袋本店が閉店されたのち、Titleをオープンさせました。その開業するまでを丁寧に描いています。

 

■作品を読んで

トーコは増補版ではなく、単行本版の初版を読んでいます。なので、その後のTitleの部分を知りません。

とはいえ、この書店は曲がりなりにもという言い方はおかしいし、様々な葛藤があるかと思いますが、うまくいっている書店だと思います。トーコもTitleに行きたいです。

作品を1言で言うなら、本屋の経営がとてつもなく大変な時代に、本を売ることについて、生の現場からの声が聴ける本です。

今後本屋の経営をしたい人はぜひ読んだ方がいいです。特に、事業計画書が巻末に添付されているのは、ありがたいです。

夢をきちんと数値で示す必要は往々にしてあります。というか、採算性を考えなきゃいけないときに、具体的な数値がないのはちょっと怖い。

さらに言えば、事業計画書がないとおそらく融資は下りないです。金を貸すということは回収できる見込みがあること。

それくらい銀行も多少シビアに見ていますから。まあ、本屋さんくらいのサイズはそもそも銀行ではなく信用金庫かもしれません。

夢を実現させるための数値がきちんと示されているというのは、大きいです。店の基本情報はもちろん、店主の来歴、出店場所の情報、店のコンセプト、図面、カフェメニュー、売上目標と予想される出費等。これをみないことには現実がわかりませんからね。

それでは、作品に行きましょう。

第1章では、遡っていつぐらいから本が好きなのか、大学を卒業し、リブロに入社し、大泉学園の店から福岡、広島、名古屋と異動し、池袋本店に回ります。

著者が就職したころは、まだ本が売れていた時代だったせいか、大泉学園の店はジャンルが満遍なくそろっている広さ120坪の店に8人の社員がいた時代です。著者曰く、今なら2,3人で回さないといけないのではという状況のようですが。

そこで、学習参考書の1ジャンルを担当していました。地味だけど、新人に仕事を覚えさせるにはいいジャンルと言われていました。

季節よる売れ筋が決まっているので、欠品のないように商品をそろえていくことが品ぞろえの基本になるようです。なんか、新聞記者でいうところの警察回りみたいなもんです。そんな裏側があるんだ、と発見できます。

それから、福岡、広島、名古屋を転々と異動します。

特に、広島のリブロは、行ったことのある人にとってはかなりいい本屋だったようです。というのも、面白いと思えるものをチョイスする本のセレクトショップの先駆けをし、他の書店と一線を画したという点が大きかったのかもしれません。

最後に池袋本店に配属されますが、2015年7月20日に閉店することになりました。なお、現在は三省堂書店が入っているあの場所です。

その閉店を見届け、片付けが済んだ8月ごろから具体的な本屋計画を考えるようになります。ここからの話がとても丁寧に記されています。

この時に作った事業計画書がかなり役に立ちます。冒頭でも触れていますが、物件を借りるとき、取次や銀行と口座を開くとき、さらには事業計画書を周りの人に見せて意見をもらうとき。こうすることで、自分の店の輪郭を徐々に定めていったようです。

これを書いていいのだろうか、とこちらもびっくりすることも書かれています。

例えば、店の屋台骨である「新刊、カフェ、ギャラリー」なのか、という点。そして、かなり理論的に分析がなされているな、と思ったことです。

本は今、インターネットで、家にいながら買うことのできる時代です。そんな時代にわざわざ遠い場所にある店まで足を運んで、そこで商品を買おうとする人がいるのは、ものを買いたいから、欲しいからというよりは、お店にいくという体験をしたいからだと思います。そう考えれば、一つのお店のなかでいろんな体験ができるほうが楽しい。カフェやギャラリーなどさまざまな誘引をつくることで、お店に足を運んでもらえるきっかけになります。

これからもし、何かしらのお店屋さんをしたい人の参考になる気がします。本だけではないです、今インターネットで家にいながら買うことのできるのは。服や家電、音楽も然り。

それでもお店に行きたいと思わせるようなものが必要で、そのヒントがある気がします。

また、商品の仕入れ方や本の選び方、並べ方、レジの仕様、カフェのすすめ方など、これをここまで公開していいのやら、と思う情報がたくさんあります。これから店を持ちたい人には本当に参考になります。

さらに、ウェブでの集客やTwitterの活用法も公開しています。開店前からお店を知ってもらうためにも、これらのツールの活用は今時必須なんだなと思わせます。

意外なところですが、定休日の設定も行っています。著者の場合は、店を任せられる人材がいるか、週刊誌の発売日に影響のない日と連休が欲しい等の兼ね合いで決めたようです。

本屋を開業してからは、「毎日のほん」という紹介のTwitterを流し、イベント運営、WebShop、さらには店舗以外の仕事にも触れています。

これも、やり方は人それぞれなんだなと思います。それにしても、この情報こんなにあっていいのやら…、と心配になります。

最終章で、1年間の売上というか決算報告とTitleを閉める時について書かれています。

決算報告を見る限り、経済的にはかなり成功している部類に入っています。見込みよりも利益があるって結構すごいです。

また、お店の存在意義や良いと思う本を選び紹介し、お客さんに売れるという本屋的には非常識だけど、小売業としてはあたりまえが形になっており、著者としてもかなりの手ごたえを感じているそうです。

お店を閉める時も書かれています。けど、そこから見えない糸でつながるというのも面白そうです。15年後に仲間入りしたいのですが…。

最後に、京都の誠光社という書店の店主と著者が対談が収録されています。それぞれの本屋の運営の仕方等に触れています。

堀部さんも誰かに教わったわけじゃないでしょう?自分もそうなんです。やる人は、やっているうちに勝手に自分でやるから。たとえば恵文社さんがちゃんと堀部さんに裁量を与えてくれたみたいに場所さえあれば、あとは勝手に育つ人は育つ。

どこの世界も一緒なんだな、と思いましたね。それはサラリーマン(2人とも書店の社員だったそう)でもフリーランスでも同じ。

それはトーコが会社で感じた違和感と一緒で、びっくりしました。

 

■最後に

荻窪にある小さな本屋さんの開業、それからの物語です。著者が経験したことをかなり惜しげもなく書かれています。

本屋さんを志す人はもちろんですが、何かを始める人も、現実の事業計画等を見ることができて非常に参考になります。

 

-エッセイ,

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