こんばんわ、トーコです。
今日は、宇沢弘文の『社会的共通資本』です。
■あらすじ
ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持する。それが社会的共通資本です。
さてさて、一体どんな役割を担っているのでしょうか。
■作品を読んで
なんだかちょうどTwitterで話題になっています。なんででしょうね。
ちょうどコロナ渦になって、行き過ぎた資本主義を顧みる流れ(322.「実力も運のうち 能力主義は正義か」もご一緒にどうぞ)があり、その中でも早くから公害や環境問題に着目し、経済分析を行ってきた宇沢弘文の理論に注目が集まっているのも事実です。
というか、1970年代から既に社会的共通資本という言葉をこの人唱えています。この作品はそんな宇沢弘文の社会的共通資本をコンパクトにまとめた大変優れた作品でもあります。
近年の粗製乱造感の否めない新書界隈においては、出版後20年は経過しているこの作品が色あせてないのが凄い。うむ、恐るべし岩波新書。
ちなみに、この方はノーベル賞に近い日本人と言われ続けました。けど、取れませんでした。また、この人は日本やアメリカの大学で様々な学者の卵たちに授業もしていたそうです。
この作品の序章を読んでビビります。
20年前からもう少し真剣に取り組んでいれば、日本の立ち位置ってきっと変わっていたんだろうな、と思うのです。それだけ20年前からある問題が解決されていないからです。もはやこれは一体何の予言なのやら。
社会的共通資本は、①社会的インフラ、②制度資本、③自然環境の3つにわけられます。具体的には、
①道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの、ごくごく一般的な社会資本
②教育、金融、司法、行政などの制度
③大気、水、森林、河川、土壌など
これらは、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営されているものです。社会的な基準にしたがって管理・運営するというのは、国や地域の様々な事情を鑑み、政治的なプロセスを得て決定したものです。
言い換えると、分権的市場経済制度が円滑に機能し、実質的所得分配が安定的となるような制度的諸条件のことでもあります。
うん、今の世の中って所得分配が安定的かと言われるとちょっと違うけど。
ただ、この作品が書かれた20世紀末の状況は、著者曰く、
二十世紀を通じて、さまざまな社会的共通資本の管理・維持をもっぱら適切におこなってこなかったことにもっぱら起因するといっても過言ではない。二十世紀の世紀末的状況を超えて、新しい世紀の可能性を探ろうとするとき、社会的共通資本の問題がもっとも大きな課題として、私たちの前に提示される。
としています。それから20年以上経過し著者も亡くなりましたが、社会的共通資本の問題は解決したのやら…、と首をかしげたくなります。
今、その放っておいたつけが回ってきているような気がします。
まず、最初に社会的共通資本の考え方から見ていきましょう。とはいえ、時代とともに移り変わる経済学とともに漂ってますけど。
1920年代の世界恐慌でケインズ経済学が主流となります。この時、生存権が保障されるようになってきました。
ここで重要なのは、制度としての政策的配慮が行われるのではなく、実際に最低所得に陥った人に所得保障によって救済しようとするものであって、市場経済制度がもたらす社会的不安定性を低めるような制度的条件を求めようとするものではないことです。
ということは、社会的な位置づけって、宙ぶらりんだったということです。まあ、当時はそういう事態になるということがわからなかったからなのでしょうか。
それから時がたち、1970年代になるとケインズ経済学で解決できた問題も少しずつほころびが出てきます。いわゆる「経済学の第二の危機」です。
ここで問題になったのは、効率化の追求、経済成長という新古典派経済理論やケインズ経済学の基本的問題意識ではなく、分配の公正、貧困の解消という経済学本来の立場であり、そのために必要な理論的な枠組みの構築が新しいパラダイムの形成に不可欠になります。
ええと、ケインズ経済学で解決されていない問題がまた噴出し、新しい枠組みがすでに1970年代の時点で求められているのです。
ここを問題の発端として著者は理論を展開していきます。
次に①社会的インフラ、②制度資本、③自然環境の3つの社会的共通資本について個別に見ていきます。
ただし、この作品では明確な論点と方向性を示しているだけで本質的な解決策は示し切れてはいないです。
それにしても、社会的共通資本に①社会的インフラしかカウントしないことが多いところで、②制度資本、③自然環境も含めているのは、本当に珍しいことで。
こちらとしては、非常にうれしいです。なぜって、インフラだけが社会的共通資本ではないでしょう。ハードだけでなく、ソフト面もそして次世代に向け守らないといけないものも含めていてありがたいですけど。
■最後に
コロナ渦以前からあった問題をつまびらかに示した本です。解決しきれていない経済学の本質的な問題が含まれての社会的共通資本です。
社会的共通資本は意外と幅が広いですが、私たち自身が納得できるものを探し、合意していかないといけないものでもあります。
20年前の作品とは思えないくらいに、現在でも解決しきれていない問題がたくさんあります。