こんばんわ、トーコです。
今日は、トーマス・トウェイツの『ゼロからトースターを作ってみた結果』です。
■あらすじ
トースターをゼロ、つまりは原材料から作ることは出来るのか。ふとした疑問からはじめてみたこのテーマ、果たして結果はいかほどか。
抱腹絶倒の不思議なドキュメンタリーです。
■作品を読んで
この作品は、中村中(あたると読みます)のラジオで紹介された本です。
2020年4月から5月はステイホームだったので、3冊(伊坂幸太郎の「終末のフール」、ブレディみかこの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」とこの作品)を課題図書として読んでみようの企画。
途中からなんとこの作品の投稿がなくなりましたが、ずいぶんくだらない(結構失礼)ことを考えて実行した人もいるもんだ、と記憶していました。
そうこうしているうちに、たまたま入った本屋さんでこの作品を見つけることができました、偶然にも。
そして、読み終えてこうして感想を書いている次第です。
この作品は、とにかく笑えます。なんせ、本当にかなり大真面目にトースターをゼロから作っているのですから。
まずは、トースターを解体するところから始まります。解体するトースターは、3ポンド94ペンス(日本円で500円)の激安トースターです。
解体すると、構成する部品数は404。意外にも多い。置き換えられる部品が複数あるとはいえ、発熱体やら、鉄、ニッケル、銅などの原材料の確保など、冒頭の20ページ目で「できる気がしない」と書かれる始末。
チャレンジするなよ、おい、と読者は総ツッコミするでしょうね。こりゃ。
それから、専門家に意見を聞きに行きます。なんか、「トリビアの泉」の統計調査をするたびに専門家に聞きに行くシーンを彷彿させます。
専門家は面白いね、なんでこの形のトースターなの、という質問を投げかけられます。
専門家の前では答えなかったけど、実は著者にとってトースターは消費文化の象徴に思えたからだそう。
そこらのくだりは作品を読んでみてください。意外と長く語っています。
そうこうしているうちに、トースターづくりの方針が決まります。躯体はプラスチック、あとは発熱体を準備する。これでスタートです。
まずは、鉄を作ることからスタートです。著者の住むロンドンから結構近いところにある鉱山に出かけます。場所は電車で2時間40分。
そこは原材料である鉄鉱石が取れる場所でもあります。
そこで鉄鉱石を採取させてもらいます。(正確には、半日かけて地下深いところに行き、爆薬を削岩機を使って爆破させないといけないので、案内人が何年か前に取った40キロ分の鉄鉱石を分けてもらいました。)
材料を手に入れた後は、鉄をつくらないといけません。鉄鉱石をいかしにて加工するかです。
まず、溶鉱炉を作り、その中で鉄の精錬を行います。うまくいったように見えますが、いざ加工してみると失敗だったことが判明します。
著者は原因分析として、次の2点を挙げます。
①燃料選びを間違えた
②鉄の溶錬技術を簡単に習得できると思った←なんでやねん。根拠は一体どこ、ってみんな突っ込みたいと思う。
この2つに共通していることは、著者が新しいプロセスは古いプロセスよりも優れていると思い込んだことのようです。
多分読んでいる人の結構な割合でなんでや、と言いたい人は多い気がします。
行き詰まりを見せたかに見えた鉄の精製はまさかの電子レンジで解決させます。早速自分で課したルールを破ります。
1回の電子レンジでチンで10ペンス硬貨ほどの大きさなので、トースターくらいの大きさになるまでジーっと作業工程を繰り返すのでした。
電子レンジによる鉄の精製に喜んでいた著者ですが、ふと街を見渡せばマンホールの蓋や街灯、歩道の柵などがあり、街中に鉄があることに気が付きます。
と、こんな感じに唐突に著者の社会を見る目が出てきて、このトースターを大真面目に作ってみたというギャグのような話の中で、一瞬にしてテンションが違ってくるので、トーコははっとします。
それから、マイカという発熱体を覆う銀色のシート、プラスチック、銅、ニッケルをあの手この手で確保します。
マイカはグレートブリテン島内に一応あり、ちゃんと手に入れることができました。
プラスチックはそのまさかで作っちゃいます。プラスチックを入れる型枠を木材で作り、石油を使わないバイオプラスチックの材料で作ってみます。結果は、表紙を見れば一目瞭然。
本人にとってはうれしい結果なのですが、はた目から見ると一体なんじゃこりゃな代物ができました。
ええ、そのまさかですよ。この作品の表紙に描かれている黄色の物体がまさにそうですわね。
ニッケルに至っては、まさかのニッケル99.9%含有の硬貨を溶かして、のばしてワイヤーにします。
ちなみに、カナダの法律にはちゃんと書かれています。「財務大臣の許可なしにコインを溶かしたり、壊したり、通貨として以外に使用してはならない」と。おーい、いいのかよ、おい。というぼやきが聞こえます。
そうしてできたパーツを組み立て、無事にトースターは完成します。
多くの人はきっと気が付くことでしょう。
モノがあふれている現代社会で、コストに反映しきれていないコストがたくさん潜んでいることに。部品を作るまでの環境負荷、材料採集のための多くの命や環境に影響を与えていること。より多くの人がこの製造過程を知れば、頻繁にトースターを買い替えることがないのではないか、と。
こんな感じで、かなり軽い調子でトースター作りをしていた著者がかなりまともなことをのたまってくれます。なんか同意しちゃいますけど。
ちなみにこのトースターの実演をしたところ、トースターはパンを焼いたのではなく、トースター自身を焼いてしまったようです。
でも、この著者さん結構ポジティブですよ。また実験してみたいのだとか。今度は違うアプローチで。
まあ、そんなもんか。
■最後に
トースター作りをかなり若者らしい軽い感じで展開していきます。大真面目にこれをやるって結構笑えますが、なかなか真剣な気づきがあります。
一読の価値ありの作品です。