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小説

【感動の話】327.『もどかしいほど静かなオルゴール店』著:瀧羽麻子

投稿日:11月 13, 2021 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、瀧羽麻子の『もどかしいほど静かなオルゴール店』です。

もどかしいほど静かなオルゴール店

 

■あらすじ

ある南の島に、人の心の中に流れている音楽をもとにオルゴールを製作する店がある。

依頼人は様々な想いを持ってそのオルゴール屋さんにやってくる…。

 

■作品を読んで

この作品を読んでから知ったのですが、これ実は前作がありました。「ありえないほどうるさいオルゴール店 (幻冬舎文庫)」という作品です。

どうやら作風はこの作品と同様のようです。店主さんの設定は変わりありません。おそらく同じような話でしょ、と思われますが、実は違うのでしょうね。

というか、この前作結構好評だったのでしょうか(あんまり聞いた記憶がない)、それとも著者が書きたかったのか、続編が出た理由がイマイチわかりませんが。

トーコの話ですが、この作品を読んでいたら地下鉄をだいぶ乗り過ごしまして、目的地にたどり着く時間に遅れが出ました。

それくらいこの作品の世界観にどっぷりつかってしまったのでしょうね。ああ初めてだ、ああ気をつけよう。

それにしても、このオルゴール屋の店主さん、地味にいろいろなところを旅していらっしゃる…。

さて、そんな前置きは置いといて、作品についての紹介です。

南の島の小さなオルゴール店の店主は、心の中に流れている音楽をオルゴールにするという特技を持っています。

おそらく前作は、このオルゴール店は都会か北国にあったようです。それは物語の中で店主が静かに語ります。

ただ店主はこの特技のおかげで都会に住んでいたころはかなり苦労していたようです。なんて言ったて、すれ違う人みなの心の中の音楽が勝手に聞こえてくるのですから、逃げ場がどこにもないのです。逆に道行く人から心の中の音楽が聞こえてこなかったらヤバいですが。

なので、今でも耳をふさぐものを装着しながら生活しています。

オルゴール店には様々な人がやってきます。

郵便配達員の祐生は幼なじみの那奈美と付き合っています。那奈美は高校時代から祐生の友人である大地と付き合っていました。

そんな那奈美の様子を見て、祐生は大地と結婚し、島に戻ってくることはないだろうと思っていました。

ある日、島の唯一の床屋に配達に行ったところ、那奈美が美容師として床屋で働いていました。彼女は戻ってきたのです。

なぜ戻ってきたかは那奈美宛の年賀状を見て理解します。大地は那奈美と別れた後、別な相手をと結婚し、結婚式の写真入りの年賀状を送ってきたのでした。

那奈美も祐生も大地の性格はわかっています。けど、そんなことをされては普通はおめでとう、という気にはなれません。

失恋のショックから立ち直るために心機一転、那奈美が島に帰ってきたのでした。

やがて祐生は改めて那奈美と付き合うことします。お互いに過去をわかりながら、未来に向けて確実に積み重ねています。

祐生は那奈美にプロポーズするため、オルゴールを準備します。メロディは島唄の「カナンタ」。好きな人のためにうたうという結構ロマンティックな伝統でもあります。

プロポーズはうまくいきます。

次は、夫から「好きな人ができた」という告白を聞き、妹が移住した南の島にたどり着いた理生。

きっと、理生の転職後仕事で忙しくなって、夫をおざなりにしてしまったことが引き金になったのでしょう。それらの原因となるものを1つ1つ分析します。

南の島のオルゴール店で、理生は夫と一緒に聞いていた歌手のメロディが浮かんできました。懐かしく、いい思い出ですが、一体どこで間違えたのだろうか。彼女はこう思います。

積み重ねてきた日々が、ともに笑いあった記憶が、思い出したくもない残骸になり果てないうちに。ジンキーの曲を聞いて、反射的に耳をふさぎたくなってしまう前に。

話しあいが円満に進むとは思えない。夫と顔を合わせたら、平静を保てる自信がない。口汚く罵るかもしれない。泣いて責めたてるかもしれない。そんな醜態をさらしたくないというもの、夫から逃げた理由のひとつだった気がする。

けれど、このまま逃げ続けても、きっとどこにもたどり着けない。

一緒に聞いていたメロディを聞くたびに嫌な気持ちになる前に、きちんと夫と向き合わないといけないんだ、と悟ります。

実は、この作品の中で1番印象に残っている部分です。きっと、トーコのこの先の人生でそんなことがないように…、という願いが含まれているんだと思います。こういう性格だから分るかも。

そのほかにも、小学生の男の子と女の子の約束だったり、異国から南の島へ嫁入りした女性の話、元ミュージシャンの友を訪ねにやってきた中年サラリーマン、島のババ様、耳の聞こえない兄と妹…。

それぞれがそれぞれの心の音楽を持っています。

ただし、オルゴールの店主は、ババ様だけは心の音楽が聞こえてこないといいます。

ババ様もといい千代が島に来る前の過去は壮絶なものでした。

名家に嫁ぎ女の子を産むも、求められているのは跡継ぎの男の子。もう産めない体だと言われ、離婚を決意します。しかし、産んだ雪子を連れていくか、おいていくかを迷った末、おいていくことを決めます。

ババ様は心の音楽がないことをこう分析します。

千代が選ばれたのは、心の中が空っぽだったからだ。

音を大きく美しく反響させるその空洞を、島神様は気に入った。そしてまた、がらんどうになった心が決して元には戻らないことも、見抜いたはずだ。

…千代自身にも埋めようとする気はさらさらないことも。

島の誰もが知らないであろうババ様の過去をこんな風にして知ることになりました。

ちなみに、オルゴール店の店主を受け入れたときも島神様は静かに受け入れていました。かなり珍しいことに。

なんだか、いい島だなあ。

 

■最後に

心の中の音楽が読めるオルゴール店の話の第2弾です。

ちょっと救われたり、すごくほっこり、やさしい気分になります。集中して読める作品です。

 

 

 

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