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【意外な作家の青春小説】475.『葡萄が目にしみる』著:林真理子

投稿日:10月 15, 2023 更新日:

こんばんは、トーコです。

今日は、林真理子の『葡萄が目にしみる』です。

 

■あらすじ

葡萄づくりの町で育った乃里子は、自分の容姿にコンプレックスを持ちながら、地元で有名な共学の進学校に進学します。

そこで待っていた高校生活とは…。高校生活を過ぎた後のことも描かれています。

 

■作品を読んで

まずは、これまでに紹介した林真理子作品です。

42.『本を読む女』 286.『綴る女 評伝・宮尾登美子』 309.『白蓮れんれん』 319.『野心のすすめ』 441.『奇跡』

これで6作目かあ。感慨深いけど、この方もっと作品ありますからね。ちなみに今(2023年10月現在)、母校の日本大学の理事長を務めています。

アメフトでのタックル事件以降、度重なる不祥事のオンパレードという渦中に理事長就任しました。すごいですね、母校のためにそこまでするとか…。

また今日も事件が起こったみたいですよ。今度は副理事長に辞任を求めたとかで。理事長権限で解任できそうな気がするが…。

まあ、それはいいとして、作品に行きましょう。

それにしても、文庫本版の装丁がきれいですね。

この作品は、42.『本を読む女』 が著者の母上を描いた作品ですが、こちらは本人の青春時代を色濃く投影された作品です。

主人公の乃里子は、葡萄づくりの町で育った女の子。葡萄づくりの町=山梨県ですね。

中学生の乃里子は東京には5回しか行ったことがなく、冴えない自分の容姿にコンプレックスを抱くのでした。

なんか、わかります。中学生のころ、自分の容姿に全く自信が持てず、小説にどれだけ慰められたんだろう…。まあ、成績だけは唯一目立ったので、そこだけは…。

中学生って、「かわいいー」ってちやほやされた方以外は、たいていの方が何かしら容姿にコンプレックスを持っていたようにも思いますがね。

山梨県から東京はかなり近いんですけどね。トーコは茨城の北の町で育ったので、そう思ってしまうのですが。

とはいえ、特急で2時間以上かかるというのは茨城の北と同じだなあと思いましたが。

もうすぐ高校受験です。乃里子は仲のいい友人と一緒の女子高ではなく、地元で有名な進学校を目指すことにします。

弘明館へ行きたい。どうしても男女共学の学校に行きたい。岩永という少年をはじめ、そこに行きさえすれば、素晴らしい未知のものにいくらでも出会えるような気がするのだ。

…(略)

身ぶるいするほどの願望を持ったのは、乃里子はその時が初めてだった。

この時偶然にも、バイクに乗ってた岩永と乃里子は出会います。中学生がバイクって今も昔も不良ですけど。

高校生になれば、きっと今の現実とは違う世界が待っているかもしれない。身ぶるいするほどの願望が原動力となって、高校受験を乗り切り、無事に弘明館へ入学することになります。

弘明館は設定上は男子が大多数の、女子はそこまで多くないという学校です。林真理子ってあと1年で70歳ですか…、とwikipediaで調べたらかえってびっくりしました。おそらく当時は地方の旧制中学は女子が少ないはずです。

この高校は文武両道がモットーの進学校です。この高校の設定がトーコの高校と一緒でちょっと吹きました。

とはいえ、乃里子は相変わらずの冴えない高校生でした。

それでも、1つ先輩の生徒会長に淡い恋心を抱くも、振られたり(そのあと生徒会長はまさかの強姦で逮捕されることになる…)、友人たちと買い食いしたり、電話で恋バナしたり。岩永という男の子はラグビー部の花形で、相変わらず手の届かない存在だったり。

高校生活を謳歌していますよ、立派に。

やがて季節は廻り、大学受験、卒業とやってきます。乃里子は大学は東京の大学を合格し、なんとか東京に進学できそうです。

ここでも乃里子は中学と同じことを思います。東京の大学生に行けば、きっときらびやかな青春が送れるはずだって。懲りないねえ。

いつかどこかで、青春のつじつまが合うことを、乃里子は信じていたから。

恋もたくさんしようと思う。東京というのは、いっぱい人が集まってくるところなのだ。自分を愛してくれる人が、きっと現れるに違いない。

「愛される」ということは、生命をひきかえにしてもいいほどのことに乃里子には思えた。

高校生から大学生での追加事項は、「愛される」ということ。大丈夫、人生のどこかでありますから(笑)

そのあとの、「真冬の夜は、しんとして、髪の揺れる音さえ、はっきりと部屋に響いた」という描写がいいなあ、と思います。

大学受験に向け猛勉強しているさなかで、恋愛感情と戦うのはちょっとしんどいものはありますけどね。他の人は恋愛してるのに…、とかありますけど。

受験が終わり、列車に乗って帰るときのこと。乃里子は岩永を見つけます。

高校時代も岩永は弘明館の伝説級にとっかえひっかえ様々な女の子と付き合っていました。岩永はだれか女の子と一緒でしたが、その子はまさかの乃里子の友人の祐子でした。

乃里子は「裏切り者」と叫んでしまいます。一緒にいる間はそぶりを見せずにいたからでしょう。ここで高校編が終わります。

最終章はまさかの大人になってからの章でした。

乃里子はFMラジオ局に就職し、その日はフリーになるべく退社する日でした。最後にみんなでクラブに行きます。

そこで美弥子という魅力的な女性に出会います。なんと彼女は、岩永を知っていました。

岩永は美弥子と恋愛をするも、美弥子には夫がいたため、泣く泣くあきらめて現在の奥さんと結婚したとか。しかも、2人は友達として食事する仲を続けていました。

そこで3人で食事をすることになります。10年ぶりくらいに乃里子は岩永と再会します。お国ことばが出てきて、とても和やかな会でした。

最後に乃里子は、「あんな綺麗な人に愛されてよかったね」といいます。あんたも私もよかったね、と。

これはハッピーエンドでしょうか?。見方を変えるとかなり意味深で、不完全燃焼感あるエンディングです。

岩永というモテ男のとなりにいた女性は、同性から見ても勝てないと思うような相手でした。そこには青春時代の清算を果たすことができたのだと思います。だから、「私も」がくっついているのだと思ってます。

実はこの作品は、直木賞候補作でした。解説ではこのエンディングが尾を引いたのではと指摘があります。

この作品の高校生のパートは、間違いなく高校生の持つ独特の自意識過剰さが色濃く投影されています。

キラキラした青春小説を読みたくない地方出身者は、すごくわかる部分の多い作品です。

 

■最後に

葡萄づくりの町の四季折々の風景やちょっとした風景描写が結構よかったりします。

高校生特有のキラキラしたものにあこがれる感覚はトーコが青春を送った時代と変わらんなあと思いました。

コンプレックスを結構抱えた学生時代を送った方へ、ちょっとだけ過去を振り返ってみるのもありでしょう。

 

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