こんばんわ、トーコです。
今日は、エマ・ストーネクスの『光を灯す男たち』です。
■あらすじ
コーンウォール灯台の灯台守3人が忽然と姿を消します…。灯台はきちんと施錠されており、誰も入ってくることができなかった。
それから20年。ある作家が、事件をベースにした小説を書くため灯台守の妻・恋人に聞き取り調査を行います。
■作品を読んで
この話は、灯台守として赴任している男たちが突然消え、残された家族の視点と当事者たちの男たちの視点が入り混じった構成で物語が展開されていきます。
正直に言うと、物語の中盤を読むまで全く展開が予想できませんでした。
どちらかと言うと、ミステリーなのかと言われるとまぁミステリーやろうと思いますが、思わない人もいるでしょう。それはラストにもかかってくる話だからでしょうかね。
これは実際の事件がモデルで、1900年のイギリスである灯台から3人の灯台守が消えました。この物語は、この事件から着想を得、事件の記憶をうまく尊重しながら描かれた作品です。
小説自体は1970年代が舞台です。1970年代だと灯台守が少しずつ消え、灯台そのものが自動化する時代に突入していきます。現在は、灯台守はほぼいない可能性が高いですね。そんな過渡期の時代を舞台にしています。
それでは作品に移りましょう。
メイデンロック灯台には、当時アーサー、ビル、ヴィンスの3人がいました。アーサーが主任で責任者、ビルはアーサーに育てられ、ヴィンスは一番の新入りでした。
事故が起こった当時、アーサーとビルはヴィンスに殺されたのではないかとされていました。
なぜならヴィンスは札付きの悪で有名で、刑務所から出所後トライデントハウスに採用されたばかりでした。ゴシップのネタとしては前科もあり、非常に犯人にしやすい存在でもあり、実際にトライデントハウスの事故報告書でも、犯人とされ事件は勝手に収束します。
この話は事件の起こった1972年から20年後の視点での出来事を描いています。
20年後ある作家が取材本の執筆活動の主題として、アーサー、ビル、ヴィンスの妻や恋人に取材しに現れます。
最初は表面的に答えていた妻たちも次第に心の奥底にしまっていた思いに気がつきます。というのも、アーサーの妻ヘレンとビルは一晩の過ちを犯します。
アーサーとヘレンの夫婦には子供がいました。しかし、波にさらわれてしまい、子供を亡くしてしまいます。
ヘレンは悲しみに暮れますが、アーサーは悲しみから逃れるために灯台守の仕事に逃げてしまいます。支えのいない妻に、ビルが近づいてきても心を揺さぶられることでしょう。というか、想像に難くないですね、この状況。
しかし、ビルの妻ハンナも、ビルがヘレンと浮気をしている事に気がつきます。
ヘレンは序盤から何か憂いがあるような感じで描かれていますが、夫を亡くした悲恋だけでなく、それ以上に幼い子どもを亡くした悲しみの方が上回っていることが徐々に明らかになってきます。
しかもハンナは灯台守の妻同士で、ヘレンとは少なからず近所付き合い位の関係性はありました。ハンナから見れば面白くはありません。寝取られてはいませんが、まあ取られているので、無理はないです。
また灯台にいるアーサーも、補給物資の伝達等を行う人からヘレンとビルの浮気を伝えられ、ビルから見れば人が変わったようになりました。
とはいえ、物理的に孤独な場所にある灯台で、3人のうちの2人がこんなギクシャクした状態で、事件が起こるというのは怖い話です。
事の真相は、ビルがアーサーを殺してしまい、自分もなぜか死んでしまったというもの。あ、ネタバレした…。
この作品のすごいところは、やはり展開の小気味よさと1972年の事故当時と20年後の1992年の世界が上手く交差されているところです。
1972年だと妻たちも、当事者当事者・被害者意識が高く、状況が上手く飲み込めない部分があったと思います。特にヴィンスの恋人のミシェルは当時10代でしたから。
20年経って作家が現れたことで、過去を清算しようと試みます。というか、当事者たちが生きていない以上、この20年間は残された女たちの戦いでもありますが。
また、男たちも終盤に近づくにつれて抱えているものの正体が分かってきます。
ビルは幼馴染同士の結婚をし、早いうちに子供を持ったので、生活に余裕がなく、発言が地味に日本のサラリーマンのようなことを言ってます。
ヴィンスは刑務所から出て、灯台守として雇われたことで、やっと生活の基盤を整えようと思い、恋人のミシェルと結婚しようと考えています。
アーサーはもう間もなく灯台が自動化し、自分の仕事はほぼなくなるのだろうという危機感を抱いています。
陸で家庭を守る女と灯台で女たちの戦いを知っているようで知らない男たちの姿が描かれています。
ヴィンスが灯台から見た景色を描いた言葉です。すごく未来を向いているなあ、と思います。この作品、結構未来向いていないから、なおのこと響く。
人間は陸地につながって生きている。舌をざらつかせた生命体が海から這い出し、足ひれで砂地を打って、鰓で空気を吸おうとして以来、陸の生き物になっている。
陸に見える光が気を引くようにちらついてから、突然、きらっと輝きを増して、せがむようなので、やはりおまえだったのかと思う。おれに話しかけているのはわかる。おまえの言うこと、おれの果たすべきことがわかる。
最後に、ヘレンは作家に会おうとします。その作家の正体は、ダン・マーティンという男で、第一発見者である補給船の船長の息子でした。
彼は、ヘレンにこういいます。
あの失踪の日に、僕の人生も変わりました。家族全体が変わったんです。親父はいつまでも引きずってました。僕もそうです。大人になって物語を書くようになり、海を取り込んでつかまえようとしたんですが、うまくいくものではなかった。もっと書くことがあるだろうと問いかける物語がありましたのでね。失踪事件のあと、モートヘイヴンの町そのものが、元に戻れなくなりました。それまでは知る人もない町でして、喪失や怪奇の物語とは無縁だった。子供らは、幸福な日々を過ごして、育ってから出ていって、休暇の季節になると、自分たちの子供を連れて帰ってくる。船や灯台をながめたり、波止場で蟹をつかまえたり。そんな町だったのに、そうではなくなってしまった。
事件の起こる前と起こった後の影響は、こんなところにも出ていましたね。まさか、発見者の人生までも一変していたとは…。
それどころか、町の雰囲気そのものが変わってしまったとは…。事件って、インパクトを残すんですね。
■最後に
灯台で突如3人の灯台守が消えます。灯台で過ごす男たちと陸に残された女たち。20年の時を経ながら対照的に描かれています。
回想と出来事がうまい距離感で描かれている作品です。