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【幻の名作】427.『彼女の思い出/逆さまの森』著:J・D・サリンジャー

投稿日:9月 26, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、J・D・サリンジャーの『彼女の思い出/逆さまの森』です。

 

■あらすじ

大戦前に出会った少女を追いかけて、急病で倒れた黒人ジャズシンガー、忽然と消えた天才詩人など。

才能のきらめきを放ちまくった幻の名作を収録しています。

 

■作品を読んで

この作品が無事に発掘されてよかったなあ、と思います。こうしてサリンジャーの新作を読むことができたので。

何というか、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』や『フラニーとズーイ』よりも全然読みやすい気がします。

サリンジャー初心者にはむしろこれは本当におすすめです。

それでは見ていきましょう。この作品は、いくつかの短編が収録されています。以下はタイトルです。

  • 彼女の思い出
  • ヴァリオ二兄弟
  • おれの軍曹
  • ボーイ・ミーツ・ガールが始まらない
  • すぐに覚えます
  • ふたりの問題
  • 新兵に関する個人的な覚書
  • ブルー・メロディー
  • 逆さまの森

最後の「逆さまの森」が1番分量があります。なんか、闇にハマれます。闇というか、迷子になるので、あえて闇という言葉を使いました。

個人的に1番好きなのは、「彼女の思い出」。

大学の成績が悪すぎて、父親からヨーロッパに行き言語を学んで来いと言われ、まずはウイーンに行きます。

ウイーンでは、リーアという「おれ」が借りた部屋の下に住むユダヤ人の女の子に恋をします。この話では、一人称は「おれ」のようですね。ここで、男はこう思います。

おそらくどんな男にも、女の子に変身してしまう街が少なくともひとつは、あるんだと思う。その男が実際にその子をよく知っていようがいまいが、その街がその子になってしまう。その子はそこにいて、その街そのものなのだ。つまり、そういうこと。

1人称「おれ」の人が言うには、ずいぶんとロマンチストやな、と思いました。なんというか、ギャップに驚きます。

でも、ロマンスは女性だけでなく、男性も夢見るものなのでしょうか。男性側からこういう思いが聞けたので、ちょっと発見です。

なので、妙に印象に残っています。まあ、軽く偏見入ってるでしょ、と突っ込まないでください。

リーアは美人の部類に入る16歳の女の子でした。まあ、恋に落ちた盲目の男からは、リーアは、初めて認める本当の美人で、本物の美人だと思ったそう。

2人は近所なので、毎晩とりとめのない会話をし、日常を楽しんでいました。

そんなある日、男は偶然にもリーアには婚約者がいることに気づきます。映画館に行ったら偶然にもリーアに会い、そこで婚約者を目撃します。

いつもの会話には登場しない人が突然現れて、男はビビります。しかも、リーアと婚約者と喋ることになりました。

リーアは次の日の晩に、婚約者とは17歳になったら結婚するんだ、と言います。もう間もなく結婚ですね…。秒読みに入ってます。

その時に、男は「あなたは美しい」といい、いつも以上に接触がありました。ここで男のウイーン編は終わり、パリに行きます。リーアからも時々手紙が来ました。

しかし、ナチスドイツがオーストリアに侵攻し、リーアは収容所に送られ、亡くなります。終戦後、男は面影を探しに、当時住んでいた建物に行きます。

そこは軍に建物が接収されており、多くの軍人が詰めていました。そこで男は無理くり、建物の中に入れてもらうことができました。

軍用のベッドとかは、1936年にはなかったものがありました。

しかし、そこにはリーアとの思い出が振り返れない状態でした。ここは直接的には描かれていないので、あくまでトーコが作品から読み取ったことを書いてます。

男は確認した後、足早に去っていきました。哀愁が漂う作品でした。

「新兵に関する個人的な覚書」という作品はものすごく短いです。ショート・ショートか、というレベルです。

これ、1回目に読んだ時話の流れが分からなくてなんだこのオチは、と思ったのですが、2回目に読んだらやっとつかめました。

軍隊に1人の男が入隊を希望します。男はローラーと言い、軍需工場の技術長ですが、後任を見つけ、軍に入ろうと、中隊事務室にやってきます。

ローラーは妻と息子が2人いて、息子2人は陸軍と海軍にそれぞれ属しています。

中隊事務室の男は、ここは受付ではないといい、入隊検査所を案内します。中隊事務室の男に、それから5分後にローラーの妻から連絡が来ます。

読者的には、何故に軍隊の偉そうな部署に、軍隊志望の男の妻から電話が来るんだ、という違和感が生まれます。でも、自然と過ぎ去ります。

ローラーは訓練を受け、兵士の見本というレベルの訓練成績でした。しかし、なかなか実務部隊に配属されませんでした。

ローラーはやがて歩兵隊に属することになり、海外に派遣されます。私はミセス・ローラーに電話をかけようとしますが、できなかったことがまた書かれます。

一体どんな関係なんだろう、と思いながら最後の一行を読むと、種明かしが。

中隊事務室の男はローラーの息子で、海軍の息子と共に見送りに行ったことを母であるミセス・ローラーに伝えたというオチでした。

2人は親子で、だから最初にローラーは中隊事務室に行ったのが分かります。あー、なるほどね、と納得の作品です。

「ブルー・メロディー」という作品は、1942年のアメリカの姿が映し出されています。

というか、この作品自体が1940年代の前半、第二次世界大戦中の時代背景が色濃く反映されています。最初紹介した短編はナチスドイツ、先ほどの作品は真珠湾攻撃と戦争の影響は無視できません。

リダ・ルイーズという黒人のジャズシンガーの女性が、ある時盲腸か何かで強烈な痛みを訴えます。

しかし、黒人は黒人専用の病院でしか受け入れてもらえず、病院搬送中にリダ・ルイーズは亡くなります。

この時期のアメリカって、境遇を間違えるとかなり残酷なんだなな、と思いました。

というのも、1942年からマイナス15年前に黒人というだけで病院に入院できないという、今の日本に生きる私たちからすると信じられない話を聞いたのですから。

なんというか、衝撃です。そりゃ黒人解放運動が起きますね…。ちなみに、これは本当の実話をベースに書かれています。

この作品たちは、サリンジャーが20代の時に書いたものです。

話としては面白く、わかるのですが、「新兵に関する個人的な覚書」はちょっと荒削りかなと個人的には思っています。おそらく、若かったからこんな書き方なんだろうなと。伏線がありそうだというのが、なんかあからさますぎるからですね。なんで妻が電話してくるんだ、という疑問が簡単に起こりますからね。

それでも、のちのサリンジャーの芽が見えてくるような気がします。とても貴重なものを読むことができました。

 

■最後に

若かりし頃の未発表のサリンジャーの短編集です。とても貴重なものです。

とても読みやすく、話がすっと入る作品が非常に多いです。サリンジャー初心者にはお勧めです。

 

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