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小説

【幸せって?】383.『ミーツ・ザ・ワールド』著:金原ひとみ

投稿日:5月 3, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、金原ひとみの『ミーツ・ザ・ワールド』です。

 

■あらすじ

焼肉擬人化漫画を愛する腐女子の由嘉里が人生2回目の合コンの帰りに、死ななきゃならないと言い続ける美しいキャバ嬢のライと出会います。

それから2人は一緒に住むことになります。一体どこに向かうのでしょうか。

 

■作品を読んで

まずは、これまでに紹介した金原ひとみ作品です。

245.『パリの砂漠、東京の蜃気楼』

なんだか、読みながらこのエッセイで書かれていた雰囲気を思い出してしまいました。というか、この作品は非常に作者の本質を表しているのかもしれません。

と言っていいのかは別問題かもしれませんが。

さて、本編に行きましょう。

この作品は、ミート・ザ・マインという焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の27歳の銀行員由嘉里が、人生2回目の合コンの帰りに新宿でゲロ吐いている場面からスタートします。

ゲロ吐いて最低な気分の時に、助けてくれた女に「いいな、あなたみたいになりたい」というと、女は「300万でなれるよ」と返します。

それが、美しいキャバ嬢・ライとの出会いでした。

由嘉里はそのあと、ライの家に行きます。バスルームは女の子っぽいのですが、そのほかは飲みかけや食べかけのゴミであふれていました。

由嘉里はライに「死にますよ」というと、「私死ぬ」とライは言います。そのうちに、ライは由嘉里にこういいます。

「適応できないとか、悲しい話じゃないんだよ。世の中の大半の人たちとは違うかもしれないけど別に病と考えるようなものじゃなくて、これはギフトで、私が与えられたもの。私がこの世に生を享けた時から持ってて、今も変わらず持っているもの。苦しんだこともあったけど、むしろ今はこのギフトを持って生まれたことに感謝している。」

「そんなことってあります?私は認めませんよ人は生きてなきゃだめです。死んだら全部終わり。私は自分が大切な人にはできる限り長生きしてもらいたいんです」

ライの考えって、実は著者自身の考えが投影されているような気がします。以前紹介した『パリの砂漠、東京の蜃気楼』に似たような雰囲気の記述があったような気がします。

でも、日本人の大部分って、由嘉里の考えなのだと思います。正直トーコは由嘉里にかなりの違和感がありますが。

由嘉里も銀行員として働いており、同僚が婚活を始めたのと母親から結婚してと言われ、一人前になるためにしぶしぶ婚活をしています。が、本当はヲタク活動に忙しい腐女子であることをひた隠しにしながら生きています。

由嘉里の前提条件がライの死にたい願望に負けそうな気がして、恐くなっています。

それから由嘉里は、ライの部屋の片づけを始めます。ライからはここに住んでもいいよと言われ、そのまま由嘉里も住み始めます。

やがて、アサヒという奥さんがいながら他の人との付き合いのマメなホスト、バーのオシン、人が死ぬ小説ばかり書くユキに出会います。

同時に、由嘉里はゲロ吐いたときの合コンにいた奥山譲とデートというか食事に出かけるようになります。

しかし、奥山と話すにつれ、何かが引っ掛かってきます。

私は勝手に、彼との付き合い始め、倦怠期、相手を憎む時期、そして別れまでをも想像してその荷の重さにうんざりする。

私は自分一人の重みしか耐えられないのではないだろうか。改めてそう思う。それを超えて無理してまで人と付き合おうという気になれないのだ。

これが由嘉里が感じたことです。そこまでして結婚したいのか、相手の一挙動を見ていや無理だ思うのでした。

この日の焼肉デートに、まさかのライ、アサヒが現れます。奥山はライと由嘉里の同居生活について尋ねます。

ここで由嘉里はかなりの違和感を感じます。何かに耐えきれなくなり、由嘉里は自分が腐女子であることを告白します。奥山はそれを聞いて、昔の彼女が忘れられない話をし始めます。

あくる日、由嘉里は大阪にオタ活のため旅立ちます。チケットが2枚取れたため、アサヒとともに旅に出ます。

オタ活が終わり、その足でライの恋人だった鵠沼に会いに行きます。しかし、鵠沼は精神科に入院しており、会える状態ではないと家族に言われます。

東京に戻るとライが300万円を残して消えます。また、アサヒと別れた後、アサヒが刺され、病院に入院していました、という怒涛の展開を見せます。

さらに、勤めている銀行でオシ活アニメのことを話したら、なんと仲間が見つかります。グッズ交換の約束をし、実家にあるグッズを取りに行きます。

その時に母親に遭遇します。母親から言われた言葉に、由嘉里はやっと気がつきます。

辛かった。好きなだけでは、足りないのだ。幸せを願うだけでは、足りないのだ。誰しも人と人との間には理解できなさがでんと横たわっていて、相手と関係継続を望むのであれば、その理解できなさとどう接していくか、どう処していくかをお互いに考え続けなければならない。

母親が一方的に由嘉里に恋愛して、友達作って、結婚して、といろいろと勝手に押し付けていました。由嘉里はライに対して同じことをしていたのです。そのことに初めて気がついた瞬間。

それは奥山との関係にも同じことが言えます。昔好きだった彼女のことが忘れられない、ということを理解できないこととどう接していくか。

おそらく、この作品の最大のモヤモヤが晴れた瞬間だとトーコは勝手に思っています。パズルのピースがようやく合いました。

物語の最後で、由嘉里はライが契約していたマンションを名義変更してそのまま住み続けることにします。

アサヒが退院し、ユキとオシンが家にやってきてパーティをします。その時に由嘉里は気がつきます。

誰かとぶつかって怪我しても膿んでも反目しても喧嘩しても結びついても絡まり合っても溶け合っても溶け合った後分裂しても、結局究極この自分と生きていくしかない。どんなにくっついたとしても人は自分の人生しか生きられないのだ。でも全ての人が自分の人生しか生きられないからこそ、私たちは他人を、愛する人を包み込みその人が物理的にいなくなったとしてもその人の目を通して世界を見て、その人と共鳴しながら生きていくことができるのかもしれない。強がりでも逆張りでもなく本当に、そんな幸せは他にないのかもしれない。

なんか独特のリズム感で最初の文章が書かれていますが、自分の人生しか生きられません。

ですが、そのあとが凄いです。愛する人とともに、というかその人と共鳴しながら生きるっていう発想に驚きます。

ライが未知の存在だったから由嘉里は惹かれたのだと思います。ライをうまく取り込むことで、ライがいなくなったことを肯定できる日が来ることを祈るかのように。

由嘉里にとって、ライと過ごした短い間が何かをもたらしたのでしょうね。人生や幸せの意味が分かったのでしょうね。

 

■最後に

最初は一体どんな展開になるやら予測がつかなかったのですが、相手との関係を築くためには時に相手の理解できなさと向き合うことも必要になります。

そのうえで自分と相手の幸せを願う意味が分かるのかもしれません。奥の深い作品です。

 

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