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【巨人の最後の書】472.『自然知能』著:外山滋比古

投稿日:9月 20, 2023 更新日:

こんばんは、トーコです。

今日は、外山滋比古の『自然知能』です。

 

■あらすじ

人工知能という言葉が出てくる前から、自然知能はあったのに、言葉としては人工知能が登場してから、自然知能に向かっていきます。

もともと私たちにある自然知能は、一体どういうものなのでしょう。同時に、人間って何だろうというきっかけになります。

 

■作品を読んで

著者の代表作は、『思考の整理学』です。あまりにも有名ですね、といいつつトーコはまだ読んだことがないんですが…。

このイメージで行くと、意外とこの作品が思っている以上に平易な言葉で書かれているのに驚きます。しかも、薄いんです。

けど、なかなか本質を突くエッセイや、おじいさんのたわごと(著者自身もこの作品の中でそう言ってます)のようなこともいろいろあって、これが著者なんだなあと思います。

亡くなる直前までこのエッセイを書いていたようです。著者は2020年に亡くなっているので、編集者から遺族へ出版しませんか、と言われて出版されました。

さて、作品に行きましょう。

というか、ここまで平易に書かれている作品のほうが、案外読むのが難しいのかもしれませんね。考えるための余白がいろいろと詰まっているからです。

この作品が執筆されたのは、2017年。人工知能やAIの発達が今ほどではなかった時代に、きっと人工知能やAIが発達する未来が見えていたんだなあ、と感じずにはいられません。

1923年生まれの著者がこのエッセイを書いたのは、94歳の時…。あの、よくもまあこれから先の未来に思考を泳がせ、エッセイを執筆するなあ、と軽く絶句します。

エッセイは全18章に分かれており、最初の第1章は問題提起になります。ここで、印象に残っているのが、

自然知能があって、そのあと、人工知能があらわれるのが順序である。人工知能が先行するのはおかしい。

人間は生まれながらにして自然知能を持っている。(中略)

昔、昔、そのまた昔から、自然知能は名もなく放置されてきたのである。そのため人間の進化はおくれた。そういうことを考える人もなかった。人工知能があらわれてようやく、自然知能が存在しなくてはいけない、ということがわかるようになった。

それにもかかわらず、自然知能ということばもない。本書が書名にこれを掲げたのは冒険であるかもしれない。

人工知能は大人の仕事である。

自然知能は生まれて数年の間、最大の力を持っていて、賞味期間のあいだに、だんだん小さくなっていくように考えられる。

この最初の部分、意外と難解かもしれません。まあ、簡単に言うと、自然知能、つまり良さを最大限発揮できる時期である幼いころの動きに着目したエッセイになっています。

だから、各章のタイトルが意外と簡単な動きの名前になっているのはそういうこと。

人工知能をつくるのは、確かに大人の仕事です。が、自然知能は賞味期間があるのかもしれませんが、気づきをもって後天的に育てることもできるのではないかと思わずにはいられません。

トーコはそう解釈しました。ある意味、気づきの書。

そして、もう1つ。これは本当の最初の部分。

日本人だけでなく、人間は少し鈍感なところがあるらしい。

つまらぬことには大騒ぎするくせに、本当に恐ろしい変化が進行していてもまるで、問題にせず、放置している。特にそれを注意する人もいない。

なんか、昨今の芸能ニュースを見ていると特に感じるような気がする。そこは騒ぐところじゃないだろうよ、ということで騒いで、本当に騒いでほしいところで騒がないという現実。

ここを呼び水に、機械の発展についてみていきます。計算機という名前で登場したコンピューターが、やがて1人1台パソコンとして普及し、人工知能が普及する時代が来ることを予見します。

こんな時代だからこそ、大切にしたい、あるいは意識したいのは人間の持つ基本的な感覚。

第2章以降で、生まれながらに持つ能力、後天的に鍛える能力(計算力、経験知他)嗅覚、味覚、手のはたらき、口のきき方、聞く、しゃべる、歩くについて述べています。

個人的には、現在1番高い高級な筆記具は万年筆であること。おそらく、ここ100年くらい変わっていないのではなかろうか…。

万年筆からボールペン、鉛筆、特に今や鉛筆の主流はBや2Bといった柔らかいものを使用する人が多くなっていることを聞いて、手で考えることの重要性について触れています。

触覚の力は、文化創造と深くかかわりあっていることは、これまでの歴史でも明らかなところである。

手の力は、新しい文化を生む、というのは人工知能が注目される中にあって、きわめて重要な考え方であるように思われる。

この章のテーマは、「手のはたらき」のため、書くことに焦点を当てているわけではないのですが、言われてみると、人工知能が手の力についてどこまで言及できるようになるんだろうか、と疑問に持ちます。

触るということは、物体として、今の人間の形であればできること、でも人工知能やデバイスができることではない。

多分、今の技術から行けばむこう10年は大丈夫な気がします。そんなことより、人間はまた新しく何かを生み出すことができると思うのです。

文化かもしれませんし、iPhoneのような発明だったり。いずれにしても、本書に書かれている自然知能の部分は、人間しかできません。

最後に、歩くの章から。これが本当にラストです。

歩くのは、健康のためばかりではなく、思考力を高めるのに、もっとも有効であるということをよく解しないのが現代である。

歩くのは、自然知能の思考力の強化にとって、かけがえのないものであるということを認めてもよいのである。

歩行は自然知能の泉であると言ってよいだろう。

忙しすぎる現代人が忘れている感覚かもしれません。ちなみに、辞めた会社で上の役職の人から「気分転換に歩くのはいい。何か整理されるから」と言われた記憶があります。タバコよりは健康にいいですね。

なんだか、機械との適切な距離を測りながら、人間ができることを考えるのにいいヒントが詰まっています。

 

■最後に

知の巨人が人工知能の時代が来ることを予見しながら、私たち人間が持つ基本的な機能に着目して、いろいろと論じたエッセイです。

人間がAIに喰われるかもしれない、と恐怖を感じている人に1番おすすめです。

 

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