こんばんわ、トーコです。
今日は、大前粟生の『私と鰐と妹の部屋』です。
■あらすじ
妹の目からビームが出たり、薔薇園に鰐が必ずいたり、忍者がいたり。
強烈だけど、可笑しくて不思議な後味のする作品です。
■作品を読んで
1つ1つの作品は結構短いので、非常に読みやすいです。140ページの中に53の物語が詰まっているので、1つの物語につき平均3ページくらいでしょうか。
というか、のっけから『妹の目からビームが出て止まらない』で始まります。目が点になります。はい…。
妹の目のビームを止めるには、姉の手でしか止められない。
しかも、大人になってからそうなったのか、妹の職場にも姉はついていかなければならないのだから、なんとも不便。
妹の友達は目からビームが出るのを知っているので、面白がって5㎝だけ開くだけでも赤い光が部屋中に充満します。
友人たちの前で光を放った後の妹には相当のストレスです。でも、妹は明るさを忘れません。
いつか2人で山を登る日が来たら、妹のビームが暗闇いっぱいに光って、空を突き破って宇宙まで届く。宇宙まで届いているかな、と妹が言う。
姉は届いていると答え、内心妹が微笑んでいればうれしいと思う。何億光年先の人にも妹のビームが届いて、一緒に笑ってくれればな、と願って。
決してネガティブに語らずに日常の一コマとして書いているからでしょうか。なんかちょっとだけ明るいんですよね。
かと思えば、『なにかが死んでいる』というタイトルからして強烈な話もあります。
妹はなにかが死んでいるのが好きだった、で始まるのですが、この人はどうして最初から強烈な1文を読者に投げつけるのだろうか。これでは読んでしまうではないか。
妹はごはんをたべるときは、いつもこういいながら食べています。これはしんだウシ、これはしんださかな、といった具合に。不気味な妹です。
当然ですが、姉は嫌がります。しかし、姉だからという理由で家や学校では一緒にいなければならない。
ある日の学校の帰りに、妹は道路に貼りついていたカエルを見つけます。そう、干からびて死んだカエルでした。
妹は初めて本当の意味で死んだものを見たのでした。姉は6年も生きてそんなことあるのか、と驚いていましたが。
それから妹は食事中何も言わなくなり、今度は外からカエルやミミズの死体を拾っては鑑賞するというなかなかキモイ趣味を持つようになりました。
妹に言えなかったことば。あんたさあ、自分が死んでいるのは好き?。
なんだろう、自分のことを棚に上げてるかよ、とツッコミたかったのでしょうか。それとも体験なんかできないから分らないというのでしょうか。
知らぬが仏といいますが、これこそまさにその通りな案件です。
それにしても、死というのもこんな角度で見させられると、なんというかかえって気持ち悪さが増大するので、姉に感情を移入しやすくなるような気がします。
『好きなひとと同じときに体調を崩してるとうれしいよね』というタイトルを読む限り、これがきっと言いたいんだなと思ってしまうくらいキャッチーなタイトルです。
これはわずか1ページしかないのですが、著者が図らずも意図してはいないのでしょうが、伝えたいことを見事に凝縮した究極系な気がします。
何気ない友人同士の会話で「好きなひとと同じときに体調崩しているとうれしいよね。繋がっていると思うし、いっしょに苦しんでいるんだとおもうとたまらない」といいます。
聞いている周りもちょっと反応します。何言ってんのこいつと思うか、すげーわかると思うか。そりゃそうですが、意見は分かれるかも。
ひとは体調を崩した時の方が、なにかを思うエネルギーが濃かったりする。まあ、言われてみればそうだ。
最後は、好きな人の病気が早く治りますようにと祈って終わります。こうなれば私だけが体調が悪いので、愛だと思うのでした。
えっ、愛なの…。最後の部分だけはさすがに引きました。そんな愛微妙やわ。
『シェルター』という話も地味にシュールです。
お父さんがいきなり滅亡に備えてシェルターを作り始めます。しかもそこに1999年から閉じこもります。
そんなんなんで、2000年生まれの私は父親に会ったことがない。てっきり死んだと思っていたくらいです。
母親も実はシェルターに入るかと言われていたのですが、拒みます。理由は、退屈なことと私を妊娠していたこと。
笑ってしまうくらい、なんかすごーく普通な理由。
私は父親に会ってはいませんが、母親は食料、水、着替えを届けたり、汚物を処理するのに父親に会っていました。
このお宅、一体どうやって生計を立てていたのでしょうかね…。イマイチ謎ですが。
私が16歳の時に父親が亡くなります。意外と世捨て人ではなく、平凡な顔をしていました。
私は父親が亡くなったことを淡々と受け入れています。まあ、父親の顔の記憶が薄れている中で、会いたいとも思ったことはないです。
しかし、母はこういいます。会わす顔がなかったんだよ、と。なんだか、シェルターから定期的に出てくればいいのにね、とトーコは思うのでした。
その次の話は、まさかの4行で終わります。『知らないひと』という作品です。
ひどいことばかり起こっているこの世界で、ひとが死なないことをうれしく感じます。
毎日が慌ただしく過ぎる中で、生きているひとを感じられると感謝もしたくなる、的な内容です。
なんだか、前の作品がなんだかな、と思った後のこの作品。かなり読んでいるこっちもほっこりします。世界がちょっとだけ平和で会ってほしいなあ、と思います。
とまあ、これはほんの一部ですが、奇想天外な話の中にはっとしたり、同意したり、なるほどね、とちょっと思うこともあります。
帯に最果タヒさんが書いていますが、「きもちのいい奇天烈」と書いています。その通りかもしれません。
■作品を読んで
1つ1つの作品は短くて、非常に読みやすいです。ただ、奇想天外な話にドキッとしたり、はっとしたりと様々な気づきがあります。
決して交わらない世界を見ることができます。