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【圧巻の音楽小説】363.『蜜蜂と遠雷』著:恩田陸

投稿日:3月 27, 2022 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、恩田陸の『蜜蜂と遠雷』です。

 

■あらすじ

3年に一度開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。

ピアノがない風間塵、天才少女として名をはせるも母親の死以降表舞台から去った栄伝亜夜、楽器屋勤務で年齢制限ギリギリで応募した高島明石、優勝候補と言われているジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ・アナトール。

一体どんな闘いを繰り広げるのでしょうか。

 

■作品を読んで

まずはこれまでに紹介した恩田陸作品を。と言っても、1作品しか紹介していません。

32.『六番目の小夜子』

で、今回の作品は2016年に刊行され(え、そんな前でしたっけ?というトーコ個人の感想)、本屋大賞と直木賞を同時受賞するという快挙なのでしょうか、を成し遂げています。

そもそも本屋大賞と直木賞って全く性質が違う賞をなぜ取れたのか非常に不思議だったのですが、読めばわかります。

単行本でもなかなかの厚さの作品で、しかも今時滅多にお目にかかれない2段組み。

おそらく1ページに倍はあるであろう分量を読まないといけないのですが(トーコの父は若いころ2段組みを見て、活字が多くてラッキーと思っていたようですが)、それでもあっという間に読めます。それくらい面白いです。

ストーリーが面白いだけなら本屋大賞だけで終わったと思います。直木賞というのはれっきとした文学賞です。正直本屋大賞とはわけが違います。

トーコが文学的に優れているなと思った点は、

  1. 登場人物がこれだけいるのに見事に描き分けられていること
  2. それぞれの登場人物のストーリーが数珠つなぎになって関連性を持たせていること
  3. 取っ散らからずに、一体になり、作品全体が立体的になっていること

のように思います。

登場人物は、実はあらすじに挙げた4人だけの物語ではないのです。

高島明石を取材するテレビクルーの雅美、明石の妻満智子、栄伝亜夜の付き人の浜崎奏、審査員の三枝子、マサルの師で三枝子の元夫で同じく審査員のナサニエル、風間塵の師のユウジ・フォン・ホフマン、調律師の浅野、オーケストラの指揮者小野寺など。

様々な立場の人物の視点から見たピアノコンクールが語られます。それによって、よりピアノコンクールの臨場感が伝わってきます。

トーコも吹奏楽コンクールには何回も出たことがあるのですが、よりプロのコンクールというのは大変ですし、想像を絶する闘いをしています。

そして何よりも、技術的なところを聞き分けるのは非常に大変です。審査員ってスゲーわ、とよく思います。僅差かもしれませんが、ある意味平等です。

ピアノではないですが、こちらは指揮者コンクールの話です。

16.『ボクの音楽武者修行』 小澤征爾の若かりし頃を描いた自伝です。

さて、そろそろ中身に入りましょうかね。文学的な紹介を語りすぎました。

この作品は、芳ヶ江ピアノコンクールを舞台に繰り広げられます。一言で言うなれば、栄伝亜夜の復活の物語という一面が大きい気がします。

栄伝亜夜は、13歳で母親の死後初めての舞台で演奏ができなくなり、それから音楽の世界から遠ざかります。

しかし、大学入学を控えたときに浜崎と出会い、浜崎が学長を務める大学に入学し、ピアノを専攻します。

浜崎の娘の奏はバイオリン奏者で、幼い頃から非常に耳がよく、コンクールを聞きに行ったらどの人が優勝するかを予想したら結構な確率で当たります。しかし、芳ヶ江ピアノコンクールが終わったらビオラに転向します。

マサル・C・レヴィ・アナトールは幼い頃日本に住んでおり、その時にあーちゃんと呼ばれる女の子と一緒にピアノ教室に行き、連弾しました。

実はそのあーちゃんは栄伝亜夜のことで、2人はコンクール会場で再会します。2人は音楽性がなかなか似ており、再会しても昔からの友人のごとく音楽について語り合います。

まあ、師匠のナサニエルに言わせれば、マサルは見事に亜夜にぞっこんですが。

とはいえ、マサルも亜夜も普通に天才と呼ばれる人種です。まあ、今回のコンクールで波乱を与える風間塵も理解しにくい天才ではあります。

この3人を主軸に物語は進んでいきます。

ここに、唯一平凡な高島明石が加わります。と言いつつも、国際ピアノコンクールに出場できること自体、一般人から見れば十分すごいことです。

ちなみに、明石がコンクール出場を決めた理由は、これです。

このコンクールの出場が、彼の音楽家としてのキャリアの最後になることは明らかだったし、それ以降は音楽好きなアマチュアとして残りの音楽人生を生きていくことになるだろう。

でも、明人(息子)が大人になった時のために、パパは「本当に」音楽家を目指していたのだという証拠を残しておきたい。

…略。

俺はいつも不思議に思っていた。孤高の音楽家だけが正しいのか?音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するに値するのか?、と

生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか。

自分は音楽に愛された天才ではない、でもそれでいいのかという疑問を持ちながら、明石はコンクールに挑みます。

しかし、明石も十分すごい結果を残します。まず、栄伝亜夜に偶然会うことができ、亜夜の演奏が好きだということを伝えた後、亜夜も高島明石を認識しており、また演奏が聴きたいと言い残して去っていきます。

さらに、3次予選に進むことは出来なかったけど、「春と修羅」という課題曲で作曲者賞と奨励賞を受賞することになりました。

明石はコンクールに参加しながら、気持ちの変化に気がついています。

最初は、ふっきるためのコンクールだった。記念受験のようなつもりだった。これで音楽に対する気持ちを整理するつもりだった。

ところが、逆に勇気をもらった。さまざまな演奏に出会い、自分もステージに立って、これからも、音楽家として生きていく決心を固めることができたのだ。

少しずつ、だ。俺のやってきたことは間違いじゃなかった。これまでのように、普段の生活を続けながら、音楽活動もしていこう。コツコツと、自分の音楽をやっていこう。

きっと、彼は彼なりの音楽を続けていくことになるんだろうな、という予感を残しています。高島明石の成長です。

しかし、コンクール期間中に成長著しかったのは栄伝亜夜だったのかもしれません。

最初は学長の浜崎に言われ、渋々参加しました。ですが、マサルと再会したり、風間塵に出会ったり、他人の演奏を聴いたりしているうちに、予選を通過するうちに演奏に少しずつ変化が見られます。

というか、自分の出番の寸前でもホールで他の演奏者を聴いてるんですから、ある意味すごい…。

そして、亜夜は忘れていたものを呼び覚まします。

ごく自然に、「あたしだったらどう弾くかな」と思ったのは、本当に久しぶりのことだった。

音楽を作る。自分の中に構築する。

かつて、幼い頃には自然にやっていたシミュレーション。ずっと開けるのを忘れていた引き出しを、何気なく引っ張って開けたような奇妙な感覚だった。

…略。

ああ、こんなふうにやっていいんだ。呼吸するように当たり前に、音楽を作っていってもいいんだ。

そうストンと腑に落ちる感覚を味わい、亜夜は全身が軽くなったような気がした。

見失っていた自分の音楽を取り戻した瞬間です。これからも亜夜は演奏活動をするのでないかという予感を残します。

 

■最後に

本屋大賞と直木賞をダブルで取った作品です。エンターテインメントとしても文学としても素晴らしい、稀有な作品です。

ピアノコンクールの過酷さとその中にある各登場人物たちの物語が見事に語られています。

 

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