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【再生の物語】280.『灯台からの響き』著:宮本輝

投稿日:1月 25, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、宮本輝の『灯台からの響き』です。

灯台からの響き (集英社文芸単行本)

 

■あらすじ

康平は妻が亡くなってから、営んでいた中華そば屋を閉めて、隠遁生活を送っていた。

そんなある日、本に挟まっていた亡き妻あてのはがきを見つける。そこには灯台が描かれていた。

しかも、差出人はわからない。さて、どんな人が送ってきたのだろうか。

 

■作品を読んで

これまで宮本輝作品はいくつも紹介していますので、リンクをほかにも貼ります。

23.錦繍78.「ここに地終わり海始まる」86.「田園発港行き自転車」122.「青が散る」211.「二十歳の火影」

これで6冊目の宮本輝作品です。まあ、定期的に読みたくなるのです、宮本輝作品。

なんか、静かに事件が起き、解決のためにまず気づきがあり、気づきが私たちの生活の近いところにあるから、わかりやすい。

そして、感じやすいから共感が得やすい。何より、読んでいるこっちのテンションに1番合う。読んでいて疲れないのがいいのでしょうね、きっと。

さて、話に戻りましょう。

この作品は、あらすじにも書いたように、板橋の商店街の一角で中華そば屋を営む康平は、妻亡きあと店を再開せず隠遁生活を送っていました。

そんなある日、読んでいた本の間から1枚の絵ハガキが出てきました。それは、妻に宛てたもので、妻もこの人知らないわ、と言いながら返信していたことを思い出します。

差出人とは一体どんな関係なのか、なんで灯台の絵が描かれているのか。妻亡きあと答えを聞く相手もいないので、ますます気になります。

同時に、昔なじみの友人の寛治が突然亡くなります。ついさっき会ったときは元気だったのに、ただただ驚きます。

寛治は康平に本を読み、雑学を学ぶよう勧めます。康平は高校を中退後、実家の中華そば屋を手伝っていただけで、人間的におもしろくないといいます。

それをきっかけに康平は本を読むようになりました。それから40年近くがたち、中華そば屋の2階には康平専用の図書室があります。その数なんと800冊。まあ、びっくり。

本を読むことが人間をつくるエピソードをうまく織り交ぜています。なんだか、本を読む人を励ましている気がします。読書人にとってはうれしい話です。

寛治の葬儀が終わってから、康平は灯台巡りの旅に出かけます。まずは房総半島方面の灯台を見に行こう。

康平の旅の日に、京都の大学に進学している次男から連絡が入り、東京にいるというLINEをもらいます。

まさか、宮本輝作品についにスマホやLINEという単語が出てくるとは…。そりゃ、「錦繍」は書簡のやり取りですからね。

それをわかっているとちょっと驚く、トーコ。

次男には房総半島にいること、一緒に灯台巡りをするかと誘います。次男からは行く、と返事がきます。

旅の道中に、次男からは「大学院に進学したい、けどうちにそんなお金があるのかな」と自らの進路を相談されます。

康平は息子が自分の将来と家の経済状況をここまで考えていたことを初めて知りました。

康平は、これでやっと中華そば屋「まきの」を再開する決心をします。息子の進学費用は何としてでも稼ごう、と。

亡き妻と2人3脚でやってきた店で、どちらか1人が欠けたらできないと思っていたのですが、これでやっと再開に踏ん切りがつきました。

同時に3人いる子どもたちで、今家を出ている長男、次男ときちんと話をしていないんだな、ということに気が付きます。

もちろん、家に残っている長女もちゃんと向き合わないといけない。家族について意外と知らないんだな、と康平は感じます。

家族といえども、離れてしまうと姿が分からなくなるものです。ちゃんと話さないとダメなのだ、ということを教えてくれます。

「まきの」を再開にするにあたり、今までの営業体制の見直しやだしの取り方の方法を変えてみました。

1人で作業ができるようにという思いと、次男の進学費用分だけ稼げばいいので、昼間の営業をなしにして夜の営業のみとしました。

それにしても、板橋の商店街にあるという設定は中華そば屋「まきの」が実在の店のような印象を与えます。そのせいかすごくリアリティがあります。

それから康平は、灯台巡りの旅のついでに名古屋で働く長男に会いに行きます。彼が用意したホテルは取引先に太鼓判をもらっているホテルで、予約した料理屋もすごくおいしいところでした。

そこで、長男は父親にこういいます。実家が中華そば屋だなんて言えない時期もあったけど、働いてから親のすごさが分かったようです。

俺は、自分の本業じゃない雑用仕事を正確に迅速にこなせるようになろうって決めたんだ。接待だけじゃないよ。突然の資料作りも、機械の故障への対応も。なんでも屋に徹するんだ。

今時こういう若者は減っていますが、その通りですよ。雑用なめてるやつに仕事はできません。

それは実感としてあります。下働きの段階で弱音を言うやつがこの先やっていけるとは誰も思いません。

同時に長男は、亡くなった母親が出雲に暮らしていたことがあったことを教えます。出雲は、例の絵ハガキの灯台のある場所でもあります。

そのころの知り合いと年賀状でのやり取りは続いていることも教えます。

康平は、絵ハガキの謎につながる情報を得、長男の頼もしい成長を感じながら灯台巡りの旅を続けます。

しかし、灯台を見ている途中で康平は転倒、骨折します。そこで医師から、中華そば屋は10日ほど休業した方がいいことを伝えられます。

再開に向けたスケジュールも順調にはいかないようです。

板橋に戻ってからリハビリに励む中で、若い2人の男女に遭遇します。

この男の方は、実は亡くなった寛治が福岡に転勤になったときに浮気した相手との間の子でした。しかも女が寛治には中絶したと伝えていたので、まさか子どもが本当に存在していたとは夢にも思わなかったでしょう。

男は新之助といい、18歳の少年です。女は由衣で2人には子供が2人います。彼は父親が住んでいた場所を一目見たく、板橋にやってきました。

そこで、康平の親友である惣菜店を営む登志夫は新之助にこういいます。

一年間、腹据えて勉強したら、行きたい大学に通るよ。高卒認定試験を受けて、それから大学を受けたら?

それから、新之助の変わりようは驚きものです。あっという間に行動を起こします。

さらに、新之助は1人で家族の引っ越しのために来ていたので、自由時間の間に康平の灯台巡りの旅についていきます。

ラストで康平は出雲に行き、絵ハガキの差出人に連絡を取り、会うことになりました。そこで、康平も知らなかった出雲時代の妻の姿を知ります。

おそらく、3分の2を話しました。あんまり話すと面白くなくなるので、ラストはきちんと読んでほしいです。

宮本輝作品の良さは、何気ない出来事の積み重ねで物語がうまく構成されていることのような気がします。その中には様々な気づきがあり、きちんと気づきをくみ取り、コツコツと積み重ね、改善していくことを暗に問うているようです。

そして、今の方がいい意味で文学的な角が取れているようにも思います。宮本輝作品初心者にも読みやすいです。

「泥の河」を読んだときは、「あ、これは賞をとる作品だ」と直感した記憶があります。その時はなんというか、格調高い気がしたので。

 

■最後に

終盤をかなりはしょらせていただきました。面白くないので。

亡き妻のわからなかった過去を追い、真実にたどり着いたとき康平のモヤモヤもなくなりました。

日常の中にはこんなにもたくさんの気づきが詰まっていて、それに気が付くことが人生の分かれ目なのでしょうね。

 

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