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【内なる熱さを秘めた言葉】445.『灯をともす言葉』著:花森安治

投稿日:1月 1, 2023 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、花森安治の『灯をともす言葉』です。

 

■あらすじ

突然ですが、あなたは花森安治をご存知でしょうか。朝ドラ「とと姉ちゃん」に登場した「暮らしの手帖」の名編集長です。

その方が残した言葉がまとめられています。時代を超えて、自分だけでなく様々なことが変わりそうな生活の哲学があります。

 

■作品を読んで

この作品は、花森安治が様々な媒体で綴った言葉を編集したものです。

『暮らしの手帖』の編集長って結構穏やかな人なのかなと思いきや、生活に関してはなかなか力強い言葉を残しています。

大きく分けると、

  • 美について
  • この国について
  • 私たちの暮しについて
  • 造ること、売ること、買うことについて
  • 装うことについて
  • ぼくの仕事、そしてジャーナリズムについて
  • 戦争について

で構成されています。

この作品を構成した人に質問したいのですが、なぜこの並びにしたのでしょうか?

読んでいたころ(2022年3月)はウクライナで戦争が起こり始めた時期以外、年末にかけてここまで混迷なことになるとは思いもしませんでした。

ですが、今こうして振り返ると美の次にこの国についてが来たことが、妙に必然性がある気がするのです。なんだか警鐘を鳴らしているようにも思います。

たとえば、

まちがいだらけの世の中だが、まちがいがひどすぎるようだ

え、これいつ言ったの?ってツッコミたい言葉です。ちなみに、この言葉は1954年の朝日新聞に掲載された言葉です。今の世の中でも言ってください、誰か。

さらに、1964年の東京オリンピックが近くなったら、2021年開催時に出てもおかしくないような言葉があったりと結構驚きが詰まっています。

個人的な極めつけはこれな気がします。

〈国益をまもる〉とか

〈国益〉とかいいます、

そのときの〈国〉という言葉には、

ぼくらの暮しやいのちは

ふくまれていないはずです。

いろいろとざわつかせる気がします。

年末に徹子の部屋にでたタモリが2023年を「新しい戦前になるんじゃないんですかね」と言ったのに象徴されるくらいさらに混迷化する時代に突入するんだな、と思っています。

言われてみればその通りですが、政治家の言う〈国益〉のなかに私たちの暮らしは少なくとも含んでいないですよね…。

2023年の政治家もおんなじでっせ、と言いたいです。この引用は1974年の暮らしの手帖で発表されています。

いつの時代も変わらない…、というか50年以上も前なんだなと思った。

それが終ると、また暮しに戻るのでちょっとほっとする感じがあります。とはいえ、政治も暮しも地続きなんですけどね…。

ぼくらの暮しをおびやかすもの

ぼくらの暮らに役立たないものを

それを作ってきたぼくらの手で

いま それを捨てよう

これができるのは、私たち自身なんですよね…。生み出した張本人でしか止めることができないんですよ。

暮しをおびやかすものはたくさんあります。役に立たないものは勝手に消えるので、まあいいですが。

もう1つ。

女の歴史は、家事の歴史かもしれない。

せんたくでも、炊事でも、

しゃがみこんでやっていた時代は、

女の時代も低かった。

その時代を見てきた人の言葉ですね。1972年の言葉ですので、少しずついろいろな家電が登場した時代を裏付けているようにも思います。

家電の登場で家事に拘束される時間が減ってきて、少しずつ外に向かっていくきっかけが見えてきたころのことですね。

こんな時代があるから、今がある。けどまだまだだから、頑張っていく。何ができるんだろうかは、少しずつ考える。

造ること、売ること、買うことについての章は、全体的に造る、売るの企業へいろいろと矛先が向いています。それだけじゃないけど、8割方企業です。

全体を通して主張していることは、これです。

企業よ そんなにゼニをもうけて

どうしようというのだ

なんのために 生きているのだ

すっごいアンチテーゼですね。

今なら、企業よ、そんなにゼニをもうけてどうしようというのだ、その上内部留保を抱えてどうしようというのだ、でしょうか。

当時からモノを造って、売ることに対して本当の意味で責任を果たしているのかを問うてる文章が多い気がしています。

というか、1970年代当時の暮らしの手帖って、確かモノの耐久テストだかなんだかを本気で実験し、そのレポートを連載していたはずです。

金儲け感が見え透いていたことへのアンチテーゼだったのでしょう。

ここから先、少しずつ企業の社会的責任が問われていきます。著者は一体どういう気持ちで見ていたのでしょうかね…。

うつくしく着る、ということは、お金だけでは買えない

本当にその通りで、どんなに安い服を着ていてもセンスがいい人はいいし、高いものを着ていてもいかにも高いものだなあ、という着こなししかできない人もいます。驚くかもしれませんが、トーコはそんな気がします。

「よそゆき」の服という言葉は人間らしくない、というのは賛成です。服は暮しに寄り添うものですからね。

トーコもよそゆきの服はないと思っています。ドレスアップ用は別ですよ。

ぼくの仕事、ジャーナリズムについての章もびっくりします。まず、のっけがこれ。

ぼくはやはり、剣よりペンを信じる

ちなみにこのセリフは編集会議の録音だそうです。つまり今回が初めての公開。

すごいなあ、今このセリフを言えるジャーナリストはどれくらいいるんでしょうかね…。

この章のなかには、ペンを信じ、デモにも坐り込みにも参加しないという文章があります。それを朝日新聞で連載しているのですから、まあ、機能していた時代だわ…。

戦争については、戦争を生きた時代の人の生の言葉がここに記されています。

タモリの言うところの、「新しい戦前」が来ないようにするには、1人1人の個の力が試されているんだろうなあ、と思っています。それは、1人1人が現代社会で起こること、起こりそうなことをきちんと見続けることが必要になるのではないかと。

花森安治の言葉は、今の時代にもあてはまり過ぎて、超がつくほど怖いです。今こそ読むべき本なのでは…、と思ってしまいます。

そういえば、なんで『暮らしの手帖』の連載に武田砂鉄さんがいるんだろう、と思ったのですが、これを読んで理由が分かりました。

 

■最後に

今も色あせない言葉が綴られています。キッチンで野菜を切ることも暮しですが、国のことも、装うことも、買うことも暮しをするうえでは必要なことです。

暮しを守るためにも戦争について思いを馳せる必要が生じつつある時代に、1番必要な作品な気がします。

 

■関連記事

武田砂鉄さんのことも最後に触れましたので、紹介した作品をまとめます。

262.『日本の気配』324.『偉い人ほどすぐ逃げる』

 

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