こんばんわ、トーコです。
今日は、影山裕樹の『あたらしい路上のつくり方』です。
あたらしい「路上」のつくり方 実践者に聞く屋外公共空間の活用ノウハウ
■あらすじ
近年少しずつだが、「路上」イベントが増えつつある。ただ、路上や屋外イベントと一言で言っても様々な種類がある。
この作品は、手段も成果も様々なバリエーション溢れる屋外イベントのノウハウを紹介し、イベントを立ち上げたい人への手立てになることを目論見としている。
■作品を読んで
今年(2020年)に「歩行者利便増進道路」という制度が施行されました。
「歩行者利便増進道路」とは、歩道の一部を歩行者利便増進空間とし、その空間内は道路占用許可がなくても自由に使用することが可能になった、とかいう制度です。確かこんな感じ。
トーコの本業が何者かがばれてしまいそうですが…。
この制度が頭の片隅にあったので、なんとなくこの本に惹かれたのでしょうね。おそらくですが、仕事上のヒントがあるのかもしれない、と。
あ、イベント屋ではないですよ、本業。
さて、戻ります。
まず、事例に入る前の話からスタートです。のっけから耳の痛い話が聞こえてきます。
多様な市民が集まり、利用する公園、広場、道路などの公共空間にするにはどうすればいいのか、というハード面の議論は盛んで、計画・設計段階で市民を集めたワークショップが行われ、ソフト面らしきことをすることもあります。
しかし、どんな場所だったら、大勢の人が集まりたくなり、活気があふれる空間になるだろうか、という逆の発想でかつ市民の側から自発的なことというのは少ないかもしれません。
公共空間の場合、特に行政の側からお膳立てして市民側に自由に利用できるといってスペースを用意することもある。
しかし、管理者のさじ加減1つで偏りが発生し、実際に使用するにはハードルが高く、また使用するユーザーに偏りが発生する可能性もある。
こうした取り組みを進めるには、分断しそうでしない、異なるコミュニティを結ぶことが大切である、と述べます。
ここからが事例紹介です。かなり個性的な事例がそろっています。
星空の映画祭、公園での結婚式、ホーム酒場、まち歩き事業の進化版、水辺の飲食空間、野外音楽フェス、香港での実践例です。
特に面白かったのは、星空の映画祭です。
星空の映画祭はバブル期ごろから1度開催していました。当時はペンションブームが追い風になり企業スポンサーが付き、長野県にある原村も施設を作りました。映画祭自体はだんだん期間が2か月開催までに延び、23年間続いたそうです。
2006年の夏映画祭は突如休止します。背景にあったのは、運営者の高齢化と映画のフィルム配給からデジタル供給に変わったことで、ハード面での導入を行わなければならなくなったため、個人映画館の経営を圧迫していたことでした。
そういえば、ちょうどその頃ふるさとにあった小さな映画館がつぶれた記憶があります。近くに2館あって、3スクリーンあったことを思い出しました。そうか、あの映画館はそのあおりを受けたのか。
そのため、シネコンが台頭し、規模が変にでかくなったのか、ということをふと思います。困ったことにトーコはシネコンにいまだになじめません。
2009年に映画館で働いていた経験を持つ原村在住の女性が、映画祭を復活させるべく行動を起こしていました。
しかし、1人と著者だけでは人手が圧倒的に足りません。そこで、mixiで仲間を集めるための呼びかけを行ったそうです。
mixiというあたりが非常に時代を感じます。現在は廃れてしまいましたが。何が凄いって、この集まったメンバーは映画が好きなだけではなく、かつての星空の映画祭を体験した、映画祭で育った子供たちが集まったことです。
ここからは実現に向けた課題が山積しています。上映する映画の確保、ウェブサイトの作成、チラシ作成と配布場所の選定、会場となる野外ステージの手入れ…。
最後は、地元マスコミにプレスリリースを送信し、チラシの完成、会場の設営、映画祭開催期間の密着取材を行いました。
いつかこの映画祭を通して次の運営者が現れることを願いつつ。
最後にこのパートはこうまとめられます。
この作品をこの場所で見せたいという強い決意が求心力を生み出していく。きっと人々を惹きつけるのは物語だと思う。愛されるには物語がかたちづくっていくことが重要だ。
この結論は一見どちらかというとコミュニティをつなぐというコンセプトから離れるように見えて、離れていません。
星空の下で映画を見るということでコミュニティをつないだのだと思います。映画を媒介したのでしょう。
そんな自発的な場が今後こうして現れるのか、わかりません。
ただ、この作品を読めばこうして少しずつ行動していく人たちが現れて、様々な取り組みを実践していきます。
ガイアの夜明け的なテレビに映ることのない失敗や反省も多々描かれています。それが書物のよさかもしれません。
美しい美談だけで終わらないのがいいところかもしれません。派手なイベントも、地味な裏方がないと成り立ちませんからね。
公共空間を自分たちの手に、社会のあらゆる構成員によって興味深い空間にすること。
そのヒントがここにあり、路上実践が進むことを願って幕が下ります。
ただ、コロナ時代において人が密集しすぎず路上実践を進めないといけなさそうですね。さて、この本仕事のヒントになったのやら…。
■最後に
路上だけでなく様々な場所で、様々な取り組みを行う人の例を挙げています。
派手な面だけではなく、地味な裏方についても言及し、失敗や反省点もきちんと描かれています。
これからの時代の公共空間を自発的に作るうえでのヒントが隠されています。