こんばんわ、トーコです。
今日は、川上未映子の『春のこわいもの』です。
■あらすじ
2020年春、東京である6人の男女の様々な体験を描いています。少しずつ感染症の波が近づいている中で、世界が変貌していきます。
■作品を読んで
この作品は、6篇の短編集からなる作品です。
すべての短編の背景には、感染症が爆発を起こす直前の2020年の春にかかる前の景色を描いています。
そういえばそんなこともあったなあととても懐かしくもあり、そういえば現在進行形だなぁと言うことも思います。
それでは作品を見ていきましょう。
この作品は、以下の6篇が収録されています。
- 青×青
- あなたの鼻がもう少し高ければ
- 花瓶
- 寂しくなったら電話をかけて
- ブルーインク
- 娘について
個人的には、「あなたの鼻がもう少し高ければ」という作品が好きというか、印象が強烈です。
何故かと言うと、トーコの人生史上ストーリー自体が今までの人生で1番縁縁のない世界を描いているからです。
まあ、誰かの力を借りてよくなろうとは恐れ多くも思ったことはないです。ましてや、それこそ私は美人ではないのですから。
この作品は、大学生の主人公トヨがモエシャンと言う人気のインスタグラマーの女の子にあこがれています。
トヨは、彼女のSNSのアカウントをフォローして、交友関係や高級料理、ハイブランドの服を着て、金持ちの男達を使って、どれくらいかわいい女の子達と一緒に遊んでるか等の情報を得ていました。(暇だなあ)
そして、なんとそのモエシャンに会う約束を取り付けることができました。
圧倒的でも美人でもないトヨは、関東近郊の田舎街で出身でなんてことない大学に進学し、平凡な日常を送っています。
もちろんですけども、大学生独特の何か謳歌することができない日常から脱却したく、モエシャンのインスタをみてなと思います。その状態を声が以下です。
自分の本当の力を発揮することができる舞台はすぐにいくつも存在してるのに、そこに行けないもどかしさ。そして、本来の能力を発揮した自分を称賛してくれる人々はじつはもうたくさんいるっていうのに、そんな素敵なみんなにまだ出会うことができない孤独な焦り。
自分と言う存在が、何かをじっと待機している状態そのものであるような、トヨはそんな感覚がずっとぬぐえなかった。
そんなわけで、焦りと鬱屈が交互にやってきては、少しずつ幅をきかせている実生活もそこそこに、トヨはこの1年ほどSNSの美容アカウント整形アカウントに入り浸るようになっていました。
そんな彼女たちを観るに夢中になっていき、これが私の本当の私なのだと思うようになります。そんなにうまくはいかないのにね。
彼女たちの金サバイブとそれを可能にしている金の流れを追っているうちに自然とモエシャンにたどりつきました。
整形と美容にはお金かかりますから、自分たちと変わらない年の彼女たちがどうやって金を工面しているのか1番の疑問です。そんなことする必要あるんか、というのがそもそもの疑問。
このモエシャンは、ギャランティーの発生する金のかかる飲み会で稼いでる女の子たちを適材適所大量に存在紹介する元締めとして存在しています。
なかなかに辛辣な発言でも話題になっているという方ですが、まぁそーゆーでしょうね、この人。だって、この人も売れるのにものすごい努力してますからね。
そもそも募集の仕方がダイレクトメールで楽して稼ぎたい美人は写真を送ってくださいと書いてあるくらいですから、大抵は気がつかない。
しかし、約束したホテルに行ってみてモエシャンに会いに行こうとすると、チャンリイと言う側近がお出迎えしました。
そしてチャンリイはトヨに向かって開口1番に、整形をしていないのかと聞きます。
トヨは聞かれて、まずクリニックに相談してどこを整形するかを決めて、費用感があるかを把握して…と答えます。
それを聞いたチャンリイは、「まず普通それ終わってから来ない?、来るならちゃんとしてから来て欲しいんだけど。なんでブスのまま来てんの。金がないなら借金するかブスでもできる仕事して稼いでまず整形でしょ」とツッコミ突っ込まれます。
もうここから先は、チャンリイに死ぬほどやられます。目的と手段が逆なことで猛攻撃され、人脈作りたいとか金持ち紹介してくださいって言うブスを紹介したら信用なくすし無理だって言われ、コテンパンになって帰ります。
これ怖いなぁと思いつつも、チャンリイの言う事はすごい至極真っ当ですね。手段と目的が逆で、しかも自分たちの利益にならなかったらそら相手にしたくもないですよね。そこはすごい社会人の理論だなぁと思いました。
こんな世界無縁すぎるので、正直ビビりますが…。美人は得ですね…。まあ、自分で何とかして手に入れるのもいいですけど。
トヨは、内臓が痛くなると表現したくなるようなダメージを受けてその場を後にします。
隣にはマリリンと言う女の子も一緒でした。彼女は後手後手に設定して整形して臨んでいた子です。しかし、2人は一緒にカフェに行くことにしました。
そして2人は話をします。
今仕事がなくなってって大変な女の子が増えてるっていうのは、少しずつ新型コロナウィルスの影響も織り交ぜています。
まぁトヨの場合は学生なので授業料はと親に聞かれていますが、それも新型コロナウィルスの影響の一環ですが。
トヨはマリリンを見て思います。
整形美容アカウントをフォローしまくっていることで事情通だと思っていましたが、実際にやっている人を見て、現実の事は何も知らず、風俗で働いている友達もマリリンのように整形している友人や知人も1人もおらず、これまで実際に会ったことも泣ける話したことすらなかったからです。
マリリンが最近見ているインスタの話で盛り上がります。
同時に、トヨが小学校の時に仲良かった寿美ちゃんと言う女の子のことを思い出します。昔の友人のように話せる人と一緒にいて、急に懐かしくほろ苦く思い出すって事はまぁままある話です。
しかしこの話は結構人によっては退屈だなと思う方もいらっしゃると思いますが、この描写はあーやっぱり著者だなと思います。
てゆうか、そもそも、自分の顔って、考えてみたらやばくない?自分で自分の顔って、そのまま直で見たことない。みんなが見てるのは、人の顔だ。自分の顔は、誰かがいるから存在するのだ。じゃあ、でも、たとえば、たとえばこの感染症がマックスに激烈にえぐい鬼展開になって、それはもう、とことんまでひどくなって、もう誰かに会うこともなくなって、あるいは無人島とかに送り込まれて自分以外の人がいなくなったなら、顔って一体どうなるの?誰も見る人がいなくなれば、顔だって足の裏とか膝の皮とかと、そんなに変わらなくなるものなの?どうなの?いやいや、ひざと顔がちがうだろ。っていうか究極的におなじなの?そういうことなの?っていうか顔って、なんなの?
と思いながらマリリンと会話していました。描き方が少しずつ洗練されていってますが、この地味に本音むき出しで語りかける姿は著者だなあ、と思います。
他にも、もうすぐ死ぬであろう老女の話、高校生の男女の恋なのか分からない恋愛未満の話だったり、高校時代の親友との話などが収録されています。
いずれも新型コロナウィルスが近づいてくる頃の、何とも言えない状況をうまく織混ぜられています。
もうすぐ死ぬ老女の場合は、もう死ぬのだからコロナなんて関係ないと言います。
高校生同士を描いている作品では、ちょうど休校騒ぎがあったので、にわかに長期休みに入る学生たちの様子が描かれていたりしています。なんか、夏休みが突然訪れたようなものでしょうね…。
新型コロナウィルスと言うのは、こういう風にして作家の創作活動にも影響与えるんだなぁと感じさせられる作品です。
■最後に
新型コロナウイルスの足音が近づく中で展開された6人の男女の日常が描かれています。
トーコが分からない世界も見れるのが、小説ならではの楽しみです。作家の創作活動にも確実に影響を与えていたんだな、と思います。
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著者のこれまでに紹介した作品です。
29.『すべて真夜中の恋人たち』、399.『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』
また、コロナをテーマにした作品たちです。
299.『十年後の恋』著:辻仁成 、349.『コロナ後の世界』著:内田樹
[…] 29.『すべて真夜中の恋人たち』 433.『春のこわいもの』 […]