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【世界が動く】338.『雨の島』著:呉明益

投稿日:1月 2, 2022 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、呉明益の『雨の島』です。

雨の島

 

■あらすじ

小説の中に出てくる事件「クラウドの裂け目」というコンピュータウイルスによって、誰かの関係を分析し、鍵をかける。

台湾の原野と台湾に見られる種を、18世紀の博物画スタイルの挿絵とともに。

 

■作品を読んで

すごい本な気がします。

まず、つかみのプロローグからなんか独特な匂いがしてきます。一体何が始まるのか、まったくつかめません。

この作品には6つの短編集が収録されています。ただ、著者曰く、長編小説のような面持ちで執筆したそうです。

言われてみると、少し見えない糸でつながっているような気がして、何かしらの関連性があるんだな、というのが見えてくる作品でもあります。

1作目の『闇夜、黒い大地と黒い山』では、ドイツに住む身長の伸びない病気に悩んでいたソフィーは、大学に進学しミミズの研究を続けている。

ある時、「クラウドの裂け目」というウイルスが大流行する。

このウイルスは、コンピュータに侵入しては、隠していたファイルを見つけては、1人あるいは複数の人に「鍵」をメッセージとともに送られるのでした。ウイルスは人の記憶と精神を暴くことで維持しているという奇妙なものでした。

ソフィーは、鍵を受け取り、マイヤー父さんの過去を知ることになり、ふと生みの親(マイヤー父さんは育ての親)に思いを馳せます。

処理しきれない情報がたくさんある中で、ソフィーはサンティアゴ・デ・コンポステーラに巡礼の旅に出かけます。

個人的には、この展開がすごくヨーロッパだな、と思うのと当時に、コンポステーラに行ったことがあるせいかちょっと親しみを持ってます。

2作目は、『人はいかにして言語を学ぶのか』です。

これは、自閉スペクトラム症だが、鳥の声に敏感なディーズが、鳥の声の研究者になります。もう少しで研究者として登用されるときに、聴力を失ってしまいます。

ディーズはめげずに手話を覚え、聴覚障害者のためのバードウォッチング会を開き、そこで鳥の鳴き声を手話にできないかと思案します。

なかなかすごい発想の話だな、と思います。鳥の声が好きから始まって、一体どんな頭で構成したのかが不思議でなりません。

言語に対してのこのセリフは印象に残っています。

「音声言語でも伝えようがないことはたくさんあるだろう」そばかすは言葉を切って、また続けた。

「僕は…どんな言葉でも、伝えられないことはあると思う」

すごくその通りだと思うし、それはコミュニケーションの本質を1番突いているな、と思います。

3作目は『アイスシールドの森』です。

主人公敏敏(ミンミン)の恋人は、研究者でツリークライマーであるが、事故の後主人公がおかしくなります。

その治療の一環で、『新生』を経験します。これは、経験は無害でコントロール可能であると事前に知った上で、自主的にその世界に足を踏み入れ、いくつかの出来事を経験することで、苦痛の後で感情が傷ついた細胞のように癒合するというもの。

電波を受信し、体験者の一部の意識活動を分析する装置をつけながら体験するのだとか。

へえ、なんのこっちゃ…。それを見た方がかえって不愉快になりそうな気がするんですけど…。

というトーコの心の声はおいて。しかし、この主人公ミンミンには多少効き目があるようです。

というのも、なぜ恋人に執着しているのかというと、ミンミンは家族と縁を切り、恋人だけが頼りでした。ひとりぼっちになるのが怖かったのです。

そんな時に、2人の共通の友人の小鉄(シャオティエ)にミンミンはツリークライミングを教えてほしいといいます。彼女は熱心に覚えていきます。

1年経ったある日、ミンミンはシャオティエに恋人を木の上に連れていきたいと頼みます。

シャオティエは正気かと思いつつも、次の日には恋人を背負い、木の上に向かっています。そんな時に、シャオティエはミンミンの恋人に言われたことを思い出します。

「経験の中にないんだ。前に読んだ哲学書に書いてあった」阿賢(アシエン)は言った。「人間は自分の経験の中でしか生きられない。でも今朝の俺たちは自分の経験の中にはいない」小鉄(シャオティエ)は自分には永遠に阿賢のようなことは言えないと思った。こんな阿賢は何だか他人のようで、言いようのない距離を感じた。

この言葉を思い出したということは、おそらくですがこうして背負っている最中もシャオティエとアシエンの距離が離れていることを示しているのだと思います。この時と同じように。

ですが、「人間は自分の経験の中でしか生きられない」という言葉が、ちょっとトーコには1番刺さったような気がします。

2022年、人と他人はこうも違うんだ、ということを思っていればいいんだな、と。ラクに生きたいよ…。

まあ、トーコの話はおいて、彼らが木のてっぺんにたどり着いたとき、ミンミンはこう誓います。

記憶を留めている人間は心を込めて記憶を失った者が残したあらゆる物事を整理しなければならない。それは定めだ。

ミンミンの新たな決意が、木々の風景とともに描かれて幕を閉じます。

4作目の『雲は高度二千メートルに』です。

関(クワン)は弁護士をしていたが、小説家の妻が亡くなってからは全くやる気が起きず、すべての痕跡を消して、住まいを変えます。

そんな時に、クワンに亡くなった妻の小説のファイルを見ることのできる鍵がやってきます。「クラウドの裂け目」の影響です。

クワンも初めて妻の小説を目にします。それから、小説に出ていたウンピョウを探しに出かけます。

そこで、まさかの前作に登場したシャオティエに遭います。彼にも協力してもらい幻のウンピョウの撮影を試みます。

そうこうしているうちに、なんとクワンは幻のウンピョウに変わってしまいます。

…、『山月記』ですか。うそでしょ。ある意味衝撃です。

5作目は、『とこしえに受胎する女性』です。

著者が後記に書いたあらすじをそのまま借りますが、4人の異なる研究領域の人たちが、幻のクロマグロを研究船で追いかけるプロジェクトに参加しています。

著者曰く、以前の作品の『複眼人』と関連があるそうです。

6作目は、『サシバ、ベンガル虎および七人の少年少女』です。

この作品は、7人の少年少女が授業をサボって、永楽市場に行ったときに、動物が売られていることを知る。少年少女たちはいつかそこに売られていた虎を買おうとするも、主人公は鷹を買ってくる。

なぜ主人公は鷹を買ってきたかと言えば、虎が成長し、大きくなり売り物として置いておくにはあまりにも大きすぎ、解体ショーで解体されたのでした。

どんな大枚をはたいても買うことができなかったのです。だから、鷹を買ってきたのだと。

主人公にとってはこの虎に対して詩を書いていたのだから、相当な思いれがあるのでしょう。これも「クラウドの裂け目」の影響で親族が読むことができました。

また、これらの物語とともに、台湾の美しい風景や原住民の暮らしも描かれています。とはいえ、訳者曰く、

生物の営みに慰めを見出そうとするのは、人間の倨傲でもあろう。

…(中略)、しばし解きほぐされるような思いを感じたこともまた否めない。

そうかもしれない。自然のモノにとっては、自分たちに何かを見出されても人間の勝手やん、と思っているところです。

が、それでも人間は自然に何かを感じ、また先に向かう何かを見つけるのでしょうね。

 

■最後に

ふり幅の大きい作品です。ところどころで描かれている台湾の風景に癒されるでしょう。

「クラウドの裂け目」によって見ることができる過去や思い出が、様々な人に科学反応をもたらしています。

 

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