こんばんわ、鈴木Booksの店主です。
今日は、今村夏子『とんこつQ&A』の紹介です。
あるところに、「とんこつ」と看板に書かれている町中華のお店があり、そこでアルバイトを募集していた。
アルバイトとして働くことになった女は、致命的に接客ができなかった。そこで、彼女の取った方法は…
■作品を読んで
食べ物が絡む話が4作ほど収録されています。
表題作「とんこつQ&A」は、本当はとんこうという名前のはずが、うの棒が取れてしまったがゆえに「とんこつ」になってしまった、
とんこつだとラーメン屋に見えるが、本当は町中華のお店。
しかも、主人公は接客マニュアル「とんこつQ&A」がないとろくに接客もできないというおまけつき。だから、このメモ書きを読まないと、最初のころは接客ができないというやばい設定。正直、こんなに言えないのかいっと普通は絶対に採用されることのない人材も、店側にとっては貴重なアルバイト。
これも、おおらかというかずれた店主と息子の坊ちゃんのおかげ。
この2人、そんな不思議なアルバイトの姿を見て、否定はしないのだからすごい。ある時、メモを読み上げながら接客していることがぼっちゃんにばれた時も、大将は
事情を察して「メモをなくさないようにね」と言って終わりました。
普通なら「えー、こんなメモがないと言えないのー?」とバカにされるようなことを言われるのかと思ったら、違うのですから、まあいい店です。
そうして、ある時メモなしでもちゃんと言えるようになっていくのでした。ぼっちゃんが「あ、メモ見てない」って言って初めて気が付いてたくらいです。
そうこうしているうちに、新しいアルバイトの人がやってきます。何の因果かわかりませんが、またこの主人公と同じパターンで、最初はなんも言えません。この方も同様に、とんこつQ&Aで乗り切ります。
と、ここまで書くと、えっ、ってなりますが、正直、へんに印象に残ってしまい、常識というか、いろんなものがひっくり返るような印象を与える作品でもあります。
表紙の餃子がうまそうだと思ってよく見ると、さくらんぼがしれっといるではないですか。そう、なんか普通にあるようで、ちょっとのどの魚の小骨が当たるような感覚のする作品というのが店主の印象です。
実は他の3作も同様です。
2作目も誰しも1回は、自分がやってしまったことなのに、なぜかあいつがやったんだ、とすり替わってしまい、本当にやってしまった本人としては、罪の意識に苛まれていたたまれない状況になります。
これは誰しもが1回は味わったことのある状況ではないでしょうか?(少なくとも店主もあるので、あー、なるほどなって感じになりましたが。)
ちょっと、ポール・オースター『サンセット・パーク』を思い出させます。詳しいことは言いませんが。
3作目は、この主人公の女性が、相手に向き合っていると思いながら、実は対処不能なことがあったら、旦那さんに頼っているというこの頼りのなさ。しかも、この少
年の前にも対処不能なことが起こり、旦那さんが対処しています。
この女性は、自分の見たいものだけを見ているということに気づかずに、最後の最後も同じようなことをしそうになっているのを、旦那さんがそっちに行かないよう、しれっと誘導しているように思いました。
4作目は、19歳の女性が同じ工場に勤務する芝山さんというちょっと胡散臭い人物に、安いスーパーを教えてしまったことを発端に、女性のアパートで料理をするようになる。スーパーの近くに住む女性の家は、へんに便利がられるが、まあ見知ってはいるけど、キッチンで料理をされるのに落ち着かない。
だけど、ある日、芝山さんは退職することになり、この日々は終わる。
1万円と完成したレシピはやってこず。
ですが、女性はなぜか自炊をするようになります。理由は、調味料を使い切らずに処分するのはもったいないから。
この女性が自炊をし始める場面が、この作品のすべてを通して1番救いのあるなと思いました。
何でしょうね。この不思議な不気味さと、妙に自信満々な感じ。
■最後に
この方は、すごく作品世界にぐわっと引き込むのがうまいなと思いました。しかも、超独特の世界です。
表紙に騙されること、間違いなしです。