こんばんわ、トーコです。
今日は、我妻俊樹、平岡直子の『起きられない朝のための短歌入門』です。
■あらすじ
短歌の作り方があると言われたら、みなさんどう思いますか。
本流と呼ばれている場所から離れた場所で創作活動を続けている2人の目線から語られている短歌入門です。
■作品を読んで
この作品は2人の作者2人の歌人の短歌についての会話をもとにしています。
まず平岡直子さんのほうは、入門書を読み漁って短歌を始めた方で、誰かに師事した事は無いそうです。
一方の我妻さんは、ネットで短歌を発表していた方で、歌会にあまり参加していなかったそう。2002年に短歌を始めたそうですが、第一歌集大を出したのがなんと2023年とある意味遅咲き、けど知ってる人知っていた方です。
と、この2人の歌人のあり方としては全く方向違うんですが、お互いの才能を認め合っているようです。まぁ実際にコラボも多いですし。
章立ては大きく3つで、第一部が「つくる」、第二部が「よむ」、第三部が「ふたたび、つくる」です。
作ることに関しては寡作タイプなのか多作なのか、学生歌会について、連作の作り方と色々と書かれています。このように、短歌の世界がかなり見えてきます。なかなか商業出版っていうのは大変なんだなぁっていうのもちょっと伝わってきます。
第二部は、まさかの実作と批評の話です。
短歌をやっている人の場合、他人の歌の評をしゃべったり書いたり一切しないって人珍しいそうです。歌会で当てられてあーちょっと感想言うことや評と実作のセットみたいなところがあります。
当然ですけども、いい歌を作る人がいい評をするのかと言うと、必ずしもそうとは言えないところもあります。
実作と批評がセットってコーチと選手を兼任するとかそういう要素もあると思います。
最近はどっちもできる人が多いと個人的には思いますが、平岡さんは実際に人手が足りているジャンルはたいてい分業してるよねと言います。
分業してない方がある意味凄いと思うのですが、なるほどと思いました。専門分野が違うからこそ分業って必要なんだけど、確かに人手が足りてなかったら分業のしようがないですからね。これをよんでちょっとはっとしました。
と末尾のコラムもかなり面白いです。我妻さんの書いた本歌取りについてのコラムもとても面白いです。まず斉藤斎藤と言う人の歌より、
加護亜依と愛し合ってもかまわない私にはその価値があるから
と言う歌ですが、これよく知られてる(一般人は知りません)、
桟橋で愛し合ってもかまわない頑固な汚れにザブがあるから
と言う穂村弘の歌から来てます。
詳細はこの批評を読んで欲しいのですが、基本的にこの斉藤斎藤と言う人の歌にオリジナルがありません。
(加護亜依も単語ですからね)まさに本歌取りのオンパレード。広告のキャッチコピーもそうですし、音節のaiも見事に韻を踏んでますし、字数も見事に合わせてます。ここまでくるともはやあっぱれとしか言いようがありませんが、一般人が真似しようとしてもこれは相当難しいです。
我妻さん的には、作品が作品としてすぐれているかどうかの基準は、極論すれば、それがどれだけ「正確」につくられているかと言う一点にしかないと思っているそうです。
そういった意味においてはこの歌はかなり「正確」な歌だと思います。そしてこの評論も私は見事だなと思います。
平岡さんの歌の特徴の1つで、3分割にすると言うやり方もとっています。見たことなくて、そのやり方があるのも驚きですけど。以下がその歌です。
金色の星 やり方がわからないまま口を開け 銀色の星
(東京タワーを見える範囲)今違う(東京タワーから見える範囲)
本人曰くリフレインがすごく好きで、似たような言葉の響きと言葉の繰り返しが。ただしカッコがきがないと意味がわからない。
単価を変わった形に分割し、リフレインを多用するというとても面白い形の歌を作るのがおそらく得意な方なんだろうなと思いました。
個人的には平岡さんの歌が正直読んでちょっとピンとこない一方で、我妻さんの歌の力の方が全然強いなぁと思ってしまう…。
最後にタイトルの意味を知るとなかなか面白いなぁと思いました。このタイトルにしたのもおそらく我妻さんの一言で、
眠れない夜っていかにも人生そのものって感じがするから、その反対の「起きられない朝」は人生のアウェー。起きたくないんじゃなくて、つまり未だ覚めやらぬ眠りの中だよね。もしそこで歌をつくることができるなら、それはもうストレンジャーってことなんじゃなかろうか。自分の人生に対する内政が流れ込んでこない場所で、夢うつつで半分寝ながら作るみたいに。夢からこぼれてくる寝言みたいな短歌が読みたい。
この二人の短歌の創作に対する姿勢が見えてくる一言です。
なるほどなぁと気づきのある言葉です。
短歌の創作ってほんとに自由なんだなと思います。私は短歌創作はやれんなあと思うのですが。
■最後に
とても異色で、角度の違う短歌入門だなあ、と思います。いろいろと気付きのある作品です。
短歌の世界は自由ですが、なかなか難しいのでは…、とトーコは改めて思うのでした。