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【フィールドワークの世界】370.『日本の村・海をひらいた人々』著:宮本常一

投稿日:4月 11, 2022 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、宮本常一の『日本の村・海をひらいた人々』です。

 

■あらすじ

あなたは宮本常一を知っていますか。この人は、民俗学の基礎を築いた人としてもおなじみです。

この作品では、フィールドワークで見た山に住む人々と海に住む人々の暮らしをまとめています。

 

■作品を読んで

とりあえず、民俗学だ、宮本常一の著作を読んでみようと思い、手に取った作品。河出文庫から新刊が出ていたことに触発されてのことだったと思います。

なんと安直な理由よ…。

この作品は、「日本の村」と「海をひらいた人々」の2つの文章で構成されています。この作品意外と面白いです。

というわけで、見ていきましょう。

この作品の「はじめに」で、ふるさとを離れる著者に、父親はこう言いました。

旅はうかうかとしてはいけない。汽車が駅についたらそこに積まれてある荷物にどんなものがあるかをよく気をつけて見よ。それでそのあたりの産業がわかる。また乗りおりのお客のしたくで、そのあたりの村が富んでいるか貧しいかもわかる。

…(中略)。旅をすることによって、いろいろ教えられるであろう。

なかなかすごいセリフです。しかも、父親はただの百姓に過ぎませんでした。ですが、この視点は本当にすごいと思います。どうやって生まれ、木がついたのだろう…。

現代でもなるほどと思います。今では富んでいるか貧しいかの区別はなくなっていますが、車窓から見える産業に思いを馳せることができます。特に外国を旅する時に有効な気がします。

それにこの言葉を胸に刻んで旅立った少年は、やがて旅が好きになり、著者の学問に大変役に立っています。

そりゃ、1930年代から1981年に亡くなるまでフィールドワークを続けていたのですから、根っからフィールドワークが好きなんだと思います。

好きじゃなかったらできないでしょ、晩年まで。

美しい風景を、住みやすくするために努力して作ったのは、有名な人ではなく、私たちのような平凡な人のしごとでもあります。

そんな風景を見て、私たちの祖先の努力に気がつき、私たちがどうすればいいのかを考えてほしいと一石を投じてスタートします。

「日本の村」では、少年少女に呼び掛けてスタートします。ここでは、汽車で旅をしながら、様々な場所の家についてみていきます。

家の構造1つとっても、各地方ごと発展していきましたし、屋根も然りです。屋根の発展について、著者はこう思います。

…、生活の変化や生産の向上にともなって、屋根一つさえもこんなにかわってきつつあるのです。屋根のうつりかわりにも、それぞれ、その理由があり、原因があるのです。そしてよい屋根、丈夫な屋根がつくられることによって、私たちの生活もおちつきを持ち、また、よいものになっていくことがうかがわれます。

この作品ですが解説より、戦後すぐに少年少女を対象として書かれているそう。

なので、よりよくするにはどうすればいいのかという記述が多くなっています。「はじめに」も割とそうでしたね。だから、屋根の話の終わりにもこうして触れられているのだと思います。

後世の人間が読むと、印象が違いますけど。なんせ今の家とはだいぶ異なり、それどころか戦後すぐの家が古民家となるのですから。

そこから、家の間取り、いろりとかまど(どちらもほとんど今となってはない)、村全体についてとテーマを広げていきます。

「日本の村」の最後に、なかなか奥の深い言葉が記されています。

山のなかのさびしい村の小学生たちが、自分たちの村のことを調べ、ついには書物になりました。民俗学者の著者から見ても、きちんと調べ、まとめられています。

このエピソードからこう思います。

少年のころに、こうしたことをしらべて見る訓練をつけておくことによって、大きくなってもいろいろと世のなかを進歩させるための仕事ができるようになると思います。

なんだか、中学校の時に受けた総合的な学習の時間を思い出しました。毎年1つくらいは必ず調べもの学習が来るので、いろいろと調べたなあ、と。

また、師の柳田国男の著作にも触れ、少年少女たちにさらなる興味があれば民俗学にいざないます。

という感じで、「日本の村」は幕を閉じます。最後に、これは肝に銘じたいところです。

これによって(柳田国男の著作)私たちは、いままでごくつまらぬものと見すごしていたものにも、、眼をつけるようになりました。私たちは、こうした目にふれる日常のくらしのなかからも、私たちの祖先の歩んでいた歴史をまなびたいものです。

…略。

そしてそのことによって私たちはいろいろのことを学び、またこれからさきどんなにすすんでいたらよいだろう、ということも考えてみたいのです。

つづきまして、「海をひらいた人々」。

ここでは、魚、鯨を求め、船に乗り、大海原に出ていきます。時には故郷を捨てることもあります。

時には荒れ狂う海の中に命を懸けていくこともあります。もっとふるさとを良くしたいと思うのでしょうが、それをいつまで繰り返してはなりません。

だから、船を大きくし、無線電信の設備をつけます。こうすれば、危険なことに出会っても知らせることができます。それによって、マグロをたくさん捕ることができました。

どうも、最近はよくしたい、けど危ないことをしてはいけないよね、それも何回も繰り返すのはどうよ、という視点があまりにも欠けているように思うのは、トーコだけでしょうかね…。

さかなを捕るということも、多くの名もなき人の失敗が、新しい漁場を見つけ、新しい漁具を考え、発展していきました。

というか、とるだけでなく、魚をふやすくふうが、なによりたいせつでしょう、って今に始まった問題じゃないことに驚きです。

当時からそんな意識のある人がいたんですね。

そして、「海をひらいた人々」の最後にこういいます。

…、いろいろなくふうがくわえられ、いろいろな危険をおかして海でいさましくはたらいている漁師たちのくらしが、一人もこまることのないような日本をつくりたいものです。それでこそ世界一の水産国ということができるでしょう。魚をたくさんとることだけが世界一で会っても、ほんとうの世界一水産国とはいえないように思います。

それには、魚をとることを漁師たちにまかせておくばかりでなく、魚をたべる者も、海のことに興味をもち、漁師のほんとうの味方になって、一人でも多くの人が、漁業の上でこまっている問題を解決していくようにしたいと思います。

戦後すぐからこういっていた人がいたのかという驚きしかないです。

魚を食べるのは、肉よりもダイレクトに自然につながる行為なんだと思います。

肉なら牧場で育てれば数は稼げますが、海に出て網で漁をするのであれば、自然界にいる量に限りはあるし、根こそぎ捕ったら次の年の魚がいなくなります。

魚を食べる側にも責任は少しあるんだな、と思いますね。とはいえ、一体何ができるんだろう…。

 

■最後に

山や海に住む名もなき人々の暮らしのくふうが記されています。

より良くしたいという思いが、生活や暮らし、ひいては国を少しずつ発展していったんだな、と改めて感じさせます。

 

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