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【ザ・青春小説】368.『屋上のウインドノーツ』著:額賀澪

投稿日:4月 6, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、額賀澪の『屋上のウインドノーツ』です。

 

■あらすじ

給前志音は引っ込み思案で、一人ぼっちで高校生活を送っている。そんなある日、屋上でドラムのスティックを叩くところを吹奏楽部部長の日向寺大志に見られてしまう。

その様子を見た大志は、志音を思わず吹奏楽部に誘うのでした。

 

■作品を読んで

まずは、これまで紹介した額賀澪作品です。336.『風は山から吹いている』

著者は茨城県出身のためか、登場する高校の名前が非常に茨城のある地域を指していることが茨城の地理に明るい人なら容易にわかります。

それくらい結構わかりやすいです。私立も「ああ、あそこか」と思ってしまうくらいです。

トーコも茨城の高校で吹奏楽をしていたので、コンクールやなんかのイベントでこの人とひょっとしたらすれ違っていたのかもしれません。

まあ、そんな話は置いといて、作品に行きましょう。

志音は、内部進学が高校に進むのではなく、県立の高校に進むことにしました。理由は様々ですが、表向きは勉強についていけなくなった、ということですが。

読み進めればわかってきますが、幼馴染の瑠璃と離れたかったことも原因の一つです。父親の死後、もやもやが晴れずにいたようですから。

中学2年生の2月に別れていた父親と再会します。父は、母親から中学生の志音が人生に何も期待していないように見えるといったそうです。

もともと2人は大学時代に出会い、父はバンド、母は教師になるという夢を追い、頑張り屋の部分にお互いに惹かれて恋に落ち、結婚。

やがて子供が生まれるも、各々の夢や目標に向かいすぎて、存在が疎ましくなり、やがて母親が志音を連れて出ていき、離婚したとか。

志音が中学生になった時に母親が父親に連絡し、志音の様子を伝えたところ、父はもう一度バンドを組み、テレビに出ることを目標にし、あと少しなんだと語ります。なんか、頑張れるものを見つけろよ、と言います。

帰りの高速バス乗り場で父親は何か言おうとしていましたが、志音はうまく聞き取れませんでした。

しかし、その年の12月に父親は亡くなります。父親のバンドは、メジャーデビュー目前でした。

葬式が終わり父親の部屋に行くと、ドラム用のバチと真っ赤なドラム、日記を見つけます。

そこには、「志音、大志を抱いて生きろ」と書かれていました。それも、誕生し、1歳の誕生日、再会した日の日記に。

父親がバンドを再開したのは、自分が原因なのではないか、と志音に若干の痛みが走ります。

一方の日向寺大志も、いろいろと事情を抱えています。吹奏楽部の部長をすることになってしまったが、中学時代にも吹奏楽部の部長をし、散々な目に遭わせてしまったこと。そのトラウマから抜け出せずにいました。

そんなある日、大志は音楽室にドラムがあることを知ります。これがあればなあ、思っていた矢先に志音に出会います。

屋上で一人バチを叩いているところを見られ、大志はその後勧誘しますが、志音に断られます。

その後、音楽室で大志のホルンと志音のドラムでアンサンブルをし、志音は人と一緒に演奏するのが楽しいと思います。これが決めてとなり、入部を決意します。志音の中にも、何か変わりたいという思いがあったからでしょう。

吹奏楽部は夏のコンクールに向けて練習をしていました。この学校の場合は35人編成の部門なので、東日本大会を目標に練習に励んでいました。

いざ入部し、合奏が始まると、先生から要求されている音がうまく出せなかったりと壁にぶつかります。そんな時に、大志は志音にこういいます。

叩き方の前に、気持ちを変えてみたらどうだろう。音もあとからついて来るぞ

…略。

楽器って、自分がどんな状態でも、息を吹き込んだり叩いたりすれば、絶対に音を出してくれる優しい奴らなんだから

これは結構その通りの言葉で、今でも吹奏楽をやっている身としては、気持ちや歌い方次第で音は結構変わります。

てっきりこの人高校でも吹奏楽部に入っていたのかと思いきや、wikipediaを見たら、どうやら中学校だけのようです。多少取材を入れているのでしょうね、結構高校生の事情がリアルに再現されているから。じゃあ、会ってねーわ、この人。トーコの勘違いでしたわ。

ほどなくして、毎年恒例の地区の高校生を集めた講習会が開催されます。場所は、志音が通っていた私立の中高一貫校です。

志音にとっては非常に憂鬱でした。そこには幼馴染の瑠璃ちゃんがいるのですから。

中学校の時から変わったのに、中学校の時と変わらない扱いを受け、志音は声を荒げます。

志音を追いかけた瑠璃に、志音はこういいます。

自分が何も取り柄がなくて、全然一生懸命に生きてないって、瑠璃ちゃんと一緒にいるとよーくわかっちゃうの。このままじゃ瑠璃ちゃんを嫌いになって、幼稚園からずっと友達でいてくれた子を嫌う、ひどい奴になっちゃうって思った。

読者はなんとなく読み取ってきた志音のもやもやの正体が、ここで一気に噴出します。

やっと言えたところで、瑠璃と志音は改めて友達になります。今度こそいい関係を築けそうですね。

大志自身も、中学校の時に部長として失敗したことに後悔を引きずっています。ですが、現在は異なる環境で、理解ある顧問や部員たちとともに目指しているのです。

彼自身も中学校の時とは異なっていますし、その時の出来事の最善策はその時でしか見えないので。だから、出来事はどう生かすかにかかっています。

そんな時に、大志は志音と一緒に帰っているところに志音の母と遭遇します。志音の母は大志を車で送るがてらにこういいます。

凄く変わった。生きることに一生懸命になった。あの子はここにいれば大丈夫なんだって、そう思える場所がやっと見つかった

その言葉を聞いたときに、大志は屋上で志音に遭遇したあの日、大志自身のために志音に手を差し出したんだということを思います。これで間違いはないこと。

中学校の時ボロボロになった時に、大志の家族もきちんと大志を支えてくれたこと。そんな積み重ねをかみしめます。

初年度は地区大会を通過し、県大会で止まります。3年生である大志は引退になります。大志は最後に新部長と副部長を指名して去ります。

なんというか、学生時代に吹奏楽部に入ってコンクールに出たことのある人ならわかるくらい、リアルのある小説です。

ですが、吹奏楽の世界を知らない人も楽しめるようになっていると思います。読むことで追体験ができるのだと思います。

どこの吹奏楽部にもかなり個性的で変わり者のメンバーが集まり、ぶつかったり、失敗したりしながらコンクールに向かって一つの音を作ります。

合奏やパートの小話でこの過程がかなり丁寧に描かれているので、経験者にとってはかなりリアル感があり、忘れていた記憶を呼び戻す人もいるかもしれません。

最後に、この言葉。

「俺さ、今日、確かに、何かを踏み越えられたよ」

全部、大事だった。後悔も悲しみも、悔しさも。そしてこの気持ちに、何一つ、間違いなんてないんだ。

解説者がこの言葉を取り上げていましたので、便乗します。

本気で取り組んだ経験があるって、強いなと思います。間違いなんてない、そう断言できるし、後悔のない状態になるくらい本気で打ち込んだものがあるって、この先の人生の支えにもなると思います。

コンクールを通して2人は見事に成長していったのです。

 

■最後に

引っ込み思案な志音が、ドラム、大志や吹奏楽部のメンバーと出会い、コンクールを目指して成長していく物語です。

かつて(あるいは現在)吹奏楽経験のある人も、そうではない人も吹奏楽部を追体験ができる、青春小説です。

 

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