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【みんなのあこがれの地】326.『パリ行ったことないの』著:山内マリコ

投稿日:11月 6, 2021 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、山内マリコの『パリ行ったことがないの』です。

パリ行ったことないの (集英社文庫)

 

■あらすじ

多くの人が一度は行ってみたいと思う街、それがパリ。

この作品で登場する女性たちは、様々な思いを持ちながらも、パリに行きたいと夢見ています。

 

■作品を読んで

この著者の作品を読んだことがなかったので、2021年正月に大量の本を買い、その中にちゃっかり含まれていた1冊です。

3月にその積読から読み、11月にやっとブログを書いているというスローテンポで突っ込みどころ満載な状態。

まあ、読書の秋、ブログを必死に更新するの秋。皆様の参考になれば幸いです。

そんな決意表明はいいとして、本編です。

まず、最初の登場人物のあゆこ。35歳の独身で、仕事も予備校の講師と事務文書の翻訳作業で食いつないでいます。

彼女はずっと「フィガロジャポン」という雑誌を大学院修了後から10年間定期購読しています。さらにパリのガイドブックはちゃんと持っては繰り返し読んでいます。

なので、パリに行くという妄想は出来てますが、パリには実際に行ったことはありません。

トーコは妄想は好きですが、実際に金と時間(今はコロナ落ち着けもセットですが)があれば世界中旅をしていたので、この人にうまく感情移入ができません。

4ページ読んでもう無理…、と思っていたらちゃんとあゆこは気が付きます。

なぜいまのいままで、フランス語を勉強してみようと思わなかったんだろう。ああ、わたしはずっと小さな女の子みたいに、いつもただ漠然と憧れるばかりで、自分の足で一歩踏み出し、近づこうとしたことがなかったんだな。あゆこはそんな自分の性格を改めて見つめた。そしてそんな自分が、突然、猛烈に、嫌で嫌でたまらなくなった。

三十五歳にもなって、まだ十代みたいなことを言う自分。五年後は四十歳なのに。そのうち死ぬのに。

ちょっと安心します。35歳はいい大人です。いつまでも若いと思うな自分、って今から思っているのに、35歳で25歳のような気分でいられても困ります。

きっかけは、「ディティーヌ」という映画の紹介文。

あまりにも現在のあゆこの状況に酷似しており、自分そのものだと感じます。そこから、上の想いが湧き出てきます。

行動を起こさないといつまでも夢は叶いません。夢は夢のままでいいわけがないです。人生は短いのですから。

ふー、コロナ前にちゃんと海外旅行に行けてよかった、とつくづく実感します。また行きたいけど。

あゆこの中で変わるきっかけをつかんであゆこの章は終わります。

それから、田舎町から出たことのないかなえ、世田谷育ちの大学生のさほ、自称デザイナーの40歳のたえこ、冴えない主婦のななみ、夫を亡くしたハナ、絵を描くことが大好きなまい、バツイチのやすこ、モデルのラナ。さらに、夫と行くはずが、夫が腰痛で入院したため1人でパリに行く和歌子。

皆さんなかなか冴えない人生を送っています。というか、どこにでもいそうな人たちをうまく描いているような…。

それぞれがそれぞれの想いでパリにあこがれを持っています。

ちなみに、冒頭のあゆこは第1部の最後でパリに移住することを決意し、友人にも話しています。

友人は楽しそうにパリの様子を話すあゆこの様子を見て、あることに気が付きます。

とそのとき、急に「あれ?」っと思ってしまった。

あれ?あたしは?あたしの人生は?ここまで…なの?

あたしが選んだ人生には、パリとか海外移住とか、そんなスペクタクルな展開は起こらないんだ。…略。いろいろあったけど、辿り着いたのは、絵に描いたような平凡な人生だったんだ。

そう思った瞬間、自動的に目からつーっと涙がこぼれた。

まあ、普通はあゆこの友人のようになると思います。友人がどんどん遠ざかり、増えるのは旦那とその家族との時間や交友関係。

慰めあうのは甘く、心地がいいものです。ですが、それでいいのかを決めるのは自分ですし、後悔するのも自分です。

あゆこはそれに気が付いてからおそらく人生に前向きになりましたし、若干手遅れですが友人もそれに気が付くことができました。

そんな友人にあゆこの飼っていた猫を託します。なにもないから、どこにも行ける。

あゆこの状況はもろトーコの状況と一緒なので、わかりますわ…。

それからあゆこはパリに移住し、語学学校に通う傍ら、現地の旅行会社に就職することができました。

8月になるとフランス人がバカンスに出かけるので、パリは静まりかえっています。なので、あゆこは8月のツアーを本物のパリジェンヌのようにバカンスを体験するツアーを企画します。

そこに集まった参加者は、最初の章で出てきたあゆこ以外の登場人物たちです。この登場人物たちが集まり、ともに旅をします。彼らなりの想いを抱え、パリでツアーに参加します。

団体旅行特有ですが、うまいこと共通項を見つけながら盛り上がります。和歌子の旦那さんがこういいます。

ずいぶん女ばかりの村だなぁ

圧倒されますよね…。女性の集団の中で男1人って。頑張ってます、この方。

このパリジャンのバカンスツアーは大成功で、あゆこは充実感に満たされます。

そんな時に、あゆこは映画館でパリに行こうと思い立った映画を偶然見ることができました。

『ディティーヌ』は思っていたイメージとは違っていましたが、映画を見ながら日本にいたころのあゆこを思い出していました。そして気が付きます。

外国に住むなんて聞こえがいいし、パリに住んでいるというだけでなんとなく格好がついているけれど、でもだからって、すべてが解決したわけじゃない。日本でうまくやれなかったから、出口を求めて、ここへ来ただけの話だ。

…略。

外国人だということは、良くも悪くも特別枠なのだ。

パリに来てから生きるのに必死でいろいろと忘れていたけど、結局自分は日本でうまくやれず、パリでは外国人ということでうまく生きているのかもしれない。

でも、同時にこうも思います。ここまで頑張ったんだから、これから先もどこだってきっとやれるって。

人生を踏み出すことができたのですから、きっといろいろなことができるはずです。

映画が終わってタバコを吸い終わるとかっこよく路上にポイっと投げ捨てます。けど、なんとなく気になってタバコをきちんと踏み消し、吸殻を拾って、携帯灰皿に入れます。

結局、パリにいても日本人気質は抜けないのです。なんか、この着地の仕方いいですね。確かに、そう思う。

 

■最後に

パリにあこがれを持つ女性たちの姿を描いた作品です。

きっかけがあればきっと変わるし、その場所で根付くことだってできる。そんなほんのりとした希望が持てます。

 

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